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喫茶店にて
『チリリン』
喫茶店のドアが開くたびにドアベルが可愛らしい音をさせる。
南側の大通りに向かって大きな窓があり、暖かな日差しが降り注ぐボックス席のソファーに顔色のあまり良くない女性が落ち着きのない様子で座っている。
一旦店の前を行き過ぎた場所に喫茶店の駐車場があるため、大きな窓を通り過ぎるときに眺めるだけで、中の様子が良くわかる。
「あー、絶対めんどくせえ案件だ。あの人だろ? 顔色悪いったら・・・ 何あれ? くっそ、紹介でも断っとくんだったー」
運転しながら、片手でがあ~っと頭を掻いている晶の耳に呆れたような声が届く。
『まあ、仕方ないだろう。引き受けた以上は行くしかないからな』
「ライコウ冷たい~! あの人、絶対おかしいじゃんか。何だよあのどよんとした黒いの?」
ため息をつきながら、駐車枠に車を入れてサイドブレーキを引く。
「うーん、アレ正気じゃないんじゃない?」
『いや、多分あれで通常だな』
「マジか? あれで? 病気じゃないの?」
『心の病気だろう』
「うへえ~ 勘弁してしいわ」
ハンドルに額を当てて、うんざり気味の晶。
『ほら、仕事だ仕事。がんばれ』
「ううう・・・」
晶は他人の纏うオーラのようなものが見える。喫茶店にいた女性をチラッと見ただけで、どういう人なのか大抵解ってしまう。纏う空気が、この世の終わりを彷彿とさせる雰囲気の人は出来ればご遠慮したいのだが・・・
「くっ、断れなかった自分が悔しい」
『お前の所には、お前に手に負えない仕事は来ない』
「知ってるけどね。あの人相手だと此方が鬱になりそう・・・」
『・・・まあな』
今は、ライコウは姿を消していて、声だけが頭の中に響いてくる。まあ、元々周りの人には見えないんだが、晶にも見えないという意味だ。このまま喋っていると晶は独り言を呟く変な人になってしまうので、車を降りたら脳内会話に切り替える。
『占いだけじゃダメな案件って言われてるからな~』
『そんなこと言ってくる時点でオカシイ奴だ。諦めろ』
『確かに、そりゃそうだわ』
車にロックをし、荷物を肩にかけ直すと、諦めて店の入り口に向かった。
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