願いを口にするヒト1

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願いを口にするヒト1

 「娘の受験を合格させて欲しいんです」  目の前の女性は、晶にそう言った。  「は?」  思わず手に持っていた、細身の葉巻をポロリと取り落とす。水とおしぼりを持ってきてテーブルに置こうとしていたマスターも、眉尻がピクッと一瞬だけ動いたが  「ごゆっくり」  と言って、笑顔で去っていった。プロだ。  「え、えーっと、合格させて欲しい?」  「はい。どうしても合格して欲しいんです先生、お願いします」  「・・・・ はあ」  ハンカチを取り出して目元を拭う女性。着ている洋服やソファーに置いてあるジャケット、バッグ等も中々に上質に見える。  年の頃は50才位。ブラウスから出ている手首は全く肉がなく、痩せ細っている。  メイクはしているが、顔色は青黒くて目の下にはクマがあり、手首同様必要最低限以下の肉付きだ。 失礼だがちゃんと食事出来てるのか? と問いただしたくなるのを我慢するのが大変だ。  相談の内容は、娘の中学受験だという。ただ晶は大前提として病気の有無、人の生死、会社や学校の合否に関しての占いはしないと仲介者に言ってあるはずなんだが・・・  「合否に関してはお答えできないんですが・・・」  「いえ、合否ではなく合格です」  「・・・・ いや、あのですね、」  「先生は、奇跡を起こせるって聞いたんです」  「・・・誰に?」  「紹介してくれた方です。あと、先生に今まで相談したことのある人にもです」  「・・・・」  眉根を寄せる晶。  『なあ、これ・・・ どないしよ? 』  『確信犯だろうな。その辺に味方になってくれるやつはいないのか?』  半目になって女性の回りを見てみる。こうすると実体の無いモノが見えやすくなるのだ。  右肩の辺りと足元にいるっぽい。  一緒に祈ってくれる霊だ。  この人味方が少ない~~!  『全然っ感謝とか慈しみとか、そういう気持ちにご縁がないの? この人っっ? 』  『悲劇のヒロインごっこが好きなタイプだ。不幸が好きなンだから仕方ないな』  『・・・ 手伝ってライコウ』  『了解だ』  不安そうな顔の女性と正面から向き合い直す。  「今回だけお手伝いしますが、これっきりになってもいいですね?」  「娘が受かってくれるだけで私は幸せになります。大丈夫です」  ハンカチで目を抑えて、両手を胸の前で嬉しそうに合わせる女性。  『ほんとうか?』  『フラグたてるなあああ~!』
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