Ep.2『奪われ手に入れ』

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ぺこっと軽く頭を下げて立ち去ろうと踵を返した。背後から慌ただしい音が聞こえた。人々が駆け寄っているようだ。担架が運ばれて彼が運ばれるのも時間の問題だと彼女は思った。 ジル─。姓名不詳の問題児。サボり魔。人の話を聞かない。しかし人一倍体格と容貌に恵まれ、非常に強い。勝負勘も鋭い少女であった。 そんな彼女を人々は「怖い」と表現する。強い上に、所属寮がイエローヤーであれば当然なのかもしれない。彼女は、恐れられる分には何と思われても気にしていなかった。そもそも気にしないと思って気にしてない訳ではない。別のことに、彼女は意識を持っていかれていた。 ─彼女は恐れられることよりも、自分の心の空白を埋めたかった。蝕まれた部分を癒したかった。ただそれだけを彼女は求めた。 強者と戦い合っても満たせなかった。いや、あのシュリュッセルは強者などではなかった。メインディッシュ─。ヴィアンド(満たしてくれる者)には程遠い。あれはただの前菜であった。コース上には存在していない。ただの食欲増幅─。闘志増幅の役割でしかない。まだまだ強者で満たせるという可能性があった。
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