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読みかけの雑誌を片手に、マゼンダモノポリー寮生であるサンヴラド・バートリーは廊下を歩いていた。図書室に向かって歩いていた。いつもならば、一体感のないざわめきに満ちている廊下が、今日は珍しく一体感のあるざわめきに満ちている。
何事かと一度立ち止まって耳を澄ませてみる。
「明日、初等部のイエローヤーの鍵奪りあるってね〜。」
「誰が、チャレンジャーなの?」
「ジルだよ、あの紫の長い外ハネヘアーの。あの長身の。」
「あー、あの人。どっちが勝つかなぁ?」
─鍵奪り…。そういえば私の寮でもしょっちゅうそんな言葉が飛び交うわね。脳筋共のしょうもない願望垂れ流し…。ほんとなんで私が脳筋の我儘人間と一緒の寮にいるのかしら。……どうだっていいか。イエローヤーの話はマゼンダモノポリーには関係ないし。─
バートリーはあくびをかいて、雑誌を片手にまた歩き出す。掲示板にも人が集まっている。きっと鍵奪りの日時の掲示でもされているのだろう、とバートリーは気にも留めない。もう耳にした情報を繰り返し聞く必要性もない。
バートリーは人一倍耳がよく、頭がいい。妙に大人びている子供である。しかし年相応に、好奇心は旺盛である─。
「や、やめてよ。…やめ…。」
「いいから来いって。言うことくらい聞けよ。俺の方が先輩だろ?」
「いや…嫌だ…。離して、ください。」
「あ、あの!…ミルから、手、離してください。」
「関係ない奴は引っ込め!」
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