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「もうすぐ梅雨だね」  薄曇りの空を見上げていた花蓮が、うつむいて歩く私に笑いかけた。花蓮はときどき、ショックで学校にも行けなくなった私を、こうして散歩に連れ出してくれる。 「そっか……」  半袖の腕にまとわりつく空気が、ぬるく湿っている。花蓮が着てる夏服の白が眩しい。  夜になればまだ肌寒かった先月とは、もう違う季節なんだ。そう感じただけで、ツキンと胸が痛む。 「茉乃亜、ちょっとは元気になった?」 「二学期から……学校には行こうと思ってる」 「うん、待ってるね。夏休みも、時々あたしと出かけようよ」  夏休み。利人君と、海や花火に行きたかったな。新しい水着を買って、お気に入りの浴衣を着て。一緒にアイス食べたり、暑いねって笑いあったりして。  そんな想像をしたら、もう枯れたと思ってた涙が、また溢れ出してきた。 「振られる覚悟はしてたけど、こんなふうにお別れがくるとは思わなかったなぁ」 「茉乃亜……」 「ごめんね花蓮、ありがとう。今はまだ悲しいけど、私……ちょっとずつ元気になるから」  いつか、この胸の痛みも、思い出に変わる。利人君の笑顔を、優しい声を、懐かしく思い出せる日がきっとくる。  名前と顔がどんなに有名になっても、本当の利人君をずっと大切に想い続けていくのは、私にしかできないことだから。  私はそう自分に言い聞かせて、6月の風にそよぐ葉桜を見上げた。
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