第1話 少女がそこにいた

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第1話 少女がそこにいた

 秋の薫りがほんのりと風に乗って漂う9月のこと。  青年が一人、嬉しさに心躍らせ小刻みなステップを踏みながら、学校からの帰路を鼻歌交じりに歩いていた。  彼の名前は麻道(あさみち) (めぐり)。  どこにでもいる量産型のような一般的で平均的で平凡的な高校二年生だ。  彼がなぜこうもご機嫌なのか。  それは、今日の昼休みまで時間を遡ることになる。  巡が学園の食堂で昼食を食べていた時のこと。  不意にスマホの通知音が鳴り、ポケットからスマホを取り出した。  SNSからの知らせだ。通知の主は【マジカルパーティアン】の公式アカウントからだった。  【マジカルパーティアン】とは、巡が愛してやまない魔法少女を主人公としたオリジナルアニメである。  今日の巡がご機嫌の理由はこの通知だ。  《マジカルパーティアン、新作劇場版制作決定!!》  巡の、生姜焼き定食を食べる右手が止まった。  昨年の9月末にアニメの第二期の放送が終わり、そこから約1年間公式アカウントからは特に音沙汰がなかった時に突然のこのお知らせ。  巡は多くの生徒たちが食事を楽しむ食堂の端の席で、立ち上がり叫んだ。  「っしゃあぁぁぁぁぁぁぁああぁぁああああああああ!!!!!!」  巡の雄叫びは食堂の中で反響し、学園全体にまで轟いた。  その後、職員室に呼び出されても巡の喜びは僅かも霞むことはなかった。  そして放課後、つまり現在。その喜びに心躍らせながら家路を歩いているというわけだ。  ―いやぁ~。劇場版はいつかは来るだろうと予想はしていたけど、まさか放送終了から1年経ってのこのタイミングかぁ。公式も憎らしくも愛らしいことしやがるなぁ~。  顔のにやつきを必死で抑えながら、巡は家に帰ってからテレビ放送の第一期を見返そうと考えていた。  しばらく歩いて、ふと辺りを見回した巡。  ―あれ?どこここ?  見渡すとそこは初めて通る見知らぬ住宅街だった。  嬉しさのあまり、何百回と通っていた通学路を外れて来てしまったらしい。  「うわ、まじかよ」  そう呟く巡。  住宅街ではあるものの、人の気配はなくどこか薄気味の悪い通りだった。また夕刻の日も落ち始めた時間帯であり一層不気味な雰囲気が漂っていた。  「……戻ろ。帰って【マジパテ】(マジカルパーティアンの略)見ないといけないし」  巡はそう言って方向を変え、来た道を歩き出す。  どれぐらい歩いただろう。  巡の感覚ではとっくに1時間は経っている。  家にたどり着けない。  ―え、なんで?  巡はふと空を見る。そういえば、空の明るさが全く変わっていない。  スマートフォンを取り出し、時刻を確認する巡。  16時13分…。  巡が学校を出たのが、16時頃。  つまり、この道に迷いこんでから時間が動いていないのだ。  ―え、やばくね?  巡は少しずつ危機感を覚え始めた。するとその時。  「私が助けてあげよっか?」  それは少女の声だった。そして、初めて聞く声だった。  巡は声の主を探すが見渡しても誰もいない。  「こっちよ。上」  少女の声でそう言われ、巡は顔を上げた。  民家の屋根の上で座り、巡を見つめる少女がそこにいた。  少し肌寒く乾いた風が頬を撫でる初秋。  時の止まった怪しげな住宅街で、巡は少女と出逢った。  
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