第13話 9年

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第13話 9年

 「ていうか、俺がその魔導志だっていつ分かったの?」  「あんたが、私の魔導志だって確定したのはついさっき。ほら、私、呪文を唱えたでしょ?」  巡は先ほど、ここに来るときのカーヤを思い出した。  『風来図(ふうらいず)』  ―そういえば、ここに飛んでくるときに言ってたような。あれが呪文か。  「呪文魔法は、魔導志からの魔力を使わないと発動できないの。だからあの時、魔法を使えたことであんたが魔導志だってことが確定したのよ」  ―それで、ここに着いたときあんなに喜んでたのか…。  「それでもやっぱりおかしくないか?」  「何がよ?」  巡は腕を組み、頭を悩ます。  「第一、まずなんで俺が魔導志だって、最初に目星をつけたわけ?」  巡の質問にカーヤは再び顔を反らす。  「そ、それは…」  明らかに今までと違う反応を見せるカーヤに、巡は首を傾げる。そこへパナードが割って入る。  「ともかくですわ。カーヤがあなた様をここに連れてきてしまった以上、大老様にお会いしていただきますわ。そしてそこで契約していただきます」  ―強引以外の何物でもないな…。  「ちょっと待てよ!今わかってること整理するから!」  巡は今まで得た情報をまとめ始めた。  ―魔法氏のカーヤちゃんが、閉鎖空間とやらに俺を閉じ込めた。それを助けると言って現れて、そのお返しに、俺をこの魔法の世界に連れてきた。それは、魔法氏のランクを上げる契約をするため。なんで俺を連れてきたかというと、俺が【颯魔】とやらの魔導志だから。そして、今パナードさんの絨毯で大老様っていう、魔法氏の神みたいな人のところに契約の許しをもらいに行く…。ざっくりとこんなところか?  巡は頭の中で、ここまでの内容をまとめ、口を開く。  「まぁ、まだわからないこと多いけど、おけ」  えらく軽い口ぶりでそう言った。  その反応は、パナードにとっても予想外だったようだ。  「なんというか…。今までの説明を聞いて、帰りたいだとか取り乱したりはしないんですのね」  「まぁ、帰れるものなら帰りたいよ。【マジパテ】見なきゃだし。でも、お礼にここに来るってさっき言っちゃったし」  「だから、それはカーヤが自分でやって、自分で助けただけですのよ?」  パナードの言葉に、巡はまっすぐな目で返す。  「そうなんだろうけどさ。来ちゃったもんはしょうがないし。それに昔から魔法って憧れてたんだ。きっかけはどうあれこの目で確かめることができたから、そのお礼って考えれば、カーヤちゃんを魔法術士とかってやつにする手伝いをするのもいいかなって。それに、俺以外じゃダメなんでしょ?」  笑いながらそう言った巡の言葉を聞いて、パナードも微笑む。  そして、パナードはカーヤの耳元で小さく耳打ちする。  「カーヤ。あなた、見る目ありますわね」  「うっさい…」  顔を赤くするカーヤを見て、パナードは口に手を添え笑う。  「え?何?なんて言ったの?」  「うっさい、バカ!アホ!ハゲ!」  「いや、ハゲてねぇよ!?」  そんな会話を繰り返しながら、一行は大老の住む三角房(バミューダ)の中枢街に到着したのだった。
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