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第14話 常識が通用しない
城の目の前まで来た巡たち。
近くで見ると、その高さに圧倒される。
城前には重々しい門があり、鎧を着た警備が両脇に立っている。
「さすがに…すごいな」
思わず言葉を漏らす巡。
正直、足がすくむ。今まで目にしたことのない光景の数々。これから相まみえる大老という名の神に等しい存在。何もかもが巡の想像以上だ。
しかし、どういうわけか、巡の気持ちは不安よりも期待の方が大きかった。
これでもかと言わんばかりの権力の象徴としてそびえる城。それを守る屈強な警備兵。門構えから漂う怪しい雰囲気。異様なこの状況に巡は内なる高揚が沸き上がってきていた。
憧れた魔法という世界の中心に、今自分は足を踏み入れようとしている。その期待感が巡の不安感を一蹴していたのだ。
契約後のデメリット。魔法に関わる危険性。大老という得体の知れない人物像。ほぼすべてのことが曖昧なまま、期待に胸を膨らますことができるのも、巡の『アニメ好き』という、ただそれだけの常識的ではない思考のなせるものだった。
今一度、深呼吸をして、巡は門に向かって歩き出す。
と、その歩みをパナードの声が止める。
「そちらではございませんわ」
「へ?」
巡がパナードの方を振り返ると、門前から少し離れた左側。
地面にある大きなマンホールのような蓋を開け、パナードはそこを指差す。
「こちらから大老様のお住まいに行けるのですわ」
―…。
「あれか?契約する人は特別に裏ルートから入る的な」
「いいえ。大老様にお会いになるには、ここからの入り口しかございませんわ」
当たり前のようにそう返すパナード。
「何してんの、グズグズするんじゃないわよ。しょうがないわね」
カーヤも巡に冷たく当たる。
巡は、咄嗟に城と兵士を指差す。
「じゃ、じゃああれは?あのでっかいお城と警備の人まで…」
「あそこは魔法の歴史を収めたただの博物館ですわ」
―なぬ?
パナードはフフと笑う。
「それに言ったではありませんか。大老様は神に等しいお方。警備や護衛など、もともと必要ないのですよ」
「それにしたって…。こんな地下に…」
「上に立つ方が、必ずしも高く居住を構えているわけではございませんわ。ここでは常識なんてものは一切通用しないので」
パナードのその言葉に、巡の期待感はさらに増したのだった。
「常識が通用しない。………………最高」
巡は笑った。
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