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第16話 濁り切った藤色
「たしかに、あなたは魔法を創造しただけなのかもしれません。それをさらに進化させてきたのは別の人だったのかもしれません…。でも…!!」
「あっ、ちょっと待って」
巡がこれから熱く語ろうというタイミングで、大老は待ったをかけた。
唐突な遮りに巡は、変な声を出す。
「もしかして、今から『0から1を生み出すのはすごいことなんですよ!』とか、『俺の憧れの魔法を創り出したあなたが、そんな弱気なこと言わないでくださいよ!』とか。どこの少年漫画でもある使い古された臭い熱いセリフを僕に言ってくれようとしているわけではないよね?」
巡の言おうとしていたことを、大老はいともたやすく言い当てた。
「え、えっと…?い、いや、そんな…ことは…」
熱く語ろうとしていた巡は、見事に出鼻を挫かれ、顔を赤くしもじもじしてしまった。
「あんた、一体何がしたいのよ…」
そんな巡の様子を、カーヤは呆れながら見つめる。
すると、大老は再び床に胡坐をかく。
「ははは、やめてやめて。そういう熱い展開はあんまり好きじゃないんだ。堅苦しいのも暑苦しいのも嫌いなんだ。フランクにクールにいこう」
そう言い終わると大老は、あっ。と何か思いついたように言葉を続けた。
「フランクール」
しばしの沈黙の後、大老の笑い声が広間に響く。
―なんとなくわかったけど、この人…変わった人だなぁ。悪い人ではなさそうだけど。
巡がそう考えていると、カーヤが先ほどまで以上の力で巡の袖を引っ張る。
「いてっ、なんだよ」
「そろそろ気合い入れといた方がいいわよ」
「え?」
「それで、君たちは…契約をしにここへ来たんだよね?」
大老のその声に、内臓の奥が震えるような悪寒が、巡とカーヤを襲った。
―うっ…!!な、なんだ…?
巡が大老を見る。
すると、先ほどまで飄々と話していた大老と同一人物とは思えないほどに、異様な何とも言えない気配を纏い、前髪から微かに覗いた瞳は冷たく濁り切った藤色で、すべてを恨むかのような眼差しで巡たちをジッと見つめていた。
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