第18話 『奇跡』

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第18話 『奇跡』

 8年前、巡が9歳の頃の出来事。  下校途中の交差点。  たしかに歩行者信号は青だった。  信号無視のトラックが、巡が歩く交差点に突っ込んできたのだ。  見事に衝突された巡の体は宙を舞ったあと、サッカーボールのように地面に叩きつけられてから2度ほどバウンドした。  即死でなかっただけでも、奇跡というべきだろう。  しかし、すぐに病院に搬送された巡だったが、命の危機に変わりはなかった。  骨折箇所は数知れず、内臓器官にも損傷が激しいらしかった。また、地面にぶつかった際に頭を強く打ち、意識不明の重体だった。  「おそらく…このまま目を覚まさない可能性も…」  巡の両親に、医者がそう言ったのだ。  現状は絶望的。  の、はずだった。  医者から報告を受けたその翌日のこと。  巡の容体は急変する。  常人では考えられない速度で回復していったのだ。医者にも原因はわからず、『奇跡』という言葉で片づけられた。  病院に搬送され、1週間が経った頃には意識も戻り、一般病室に移るまでに回復していた。充分、日常生活に戻れるレベルだったが、検査という名目でさらに1週間の入院が決まっていた。  巡は、事故当時の記憶がなく医者や親からは『インフルエンザの悪化』で入院していると説明された。  その入院中の出来事。  入院中の暇を紛らわすためという理由で、巡の両親が漫画雑誌を大量に病室へ差し入れた。  当時の巡は、漫画には疎くあまり好んでみるものではなかった。しかし、することが限られる病院の一室。仕方なく、目を通した漫画雑誌が巡の目に光を与えた。  現実ではありえないようなフィクションの世界。現れる強敵。それをなぎ倒すヒーロー。魅力的なキャラクター。奇抜な乗り物。可愛らしいヒロイン。かつての敵との共闘。目を見張る必殺技。  何もかもが光り輝いて見えた。  ―自分もこんな世界に行けたらなぁ…。  巡が2次元の世界にのめり込んだのは、まさにこの瞬間である。  そこから、退院した巡は、漫画、アニメ、ゲーム、ライトノベル。ありとあらゆるメディアコンテンツにハマるようになった。  両親も僅かながら躊躇したものの、本来死んでしまっていたかもしれない一人息子の願いをできるだけ叶えていった。  しかし、それこそが巡の環境を大きく変えてしまったのだった。
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