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第19話 差し伸べられた手
巡は違和感を感じていた。
―自分が何かをしようとすると、誰かが必ず助けてくれる。
「いいよ、やってあげる」
「大変でしょ?手伝うよ」
「私がやっておくから休んでて」
ありがたいとは思う。しかし、巡はやはり違和感を感じていた。
両親、近所の人、学校の教師、同級生まで、自分一人でどうにかできることも、なぜか皆手を貸してくれる。
巡はそれが申し訳なく、居心地が悪いものだった。どこか、自分が憐れまれている気がしてならなかったのだ。
しかし、無理もないのだ。
一度生死を彷徨った人間に無理をさせてはいけない。手を貸してあげなければならないという、偽善ともとれる心理、エゴが巡の周りにはあったからだ。
だが、自分が死線にいたことを、巡は覚えていないのだ。
この僅かな考え方のズレが、徐々に大きくなっていくのである。
「巡くん、それやっておいてあげるよ」
その日もクラスメイトが、巡に優しく声をかけてきた。
「いや、大丈夫だよ。自分でやるから」
巡は申し訳ないという気持ちで、それを拒否したのだ。
そういったことが度々あり、徐々に蓄積されていった。
次第に、クラスメイト達はこう考えるようになった。
「せっかく、優しくしてやってるのに…」「恩知らず…」「調子に乗ってる…」「何様だ…」
そんな考えや不満が広がり、巡に声をかけるものは少なくなっていき、巡は完全に学校で孤立してしまったのだ。
中学に上がっても、小学校からの者がほとんどだったこともありそれは続いたのだった。
高校生になるころには、巡はすっかり独りが当たり前の状況になっていた。
―自分は独りで大丈夫。生きていける。
そう自分に言い聞かせ生きてきた。
誰かと一緒じゃなくても、人生を楽しむことができなくても、大丈夫だと巡はそう思っていた。
誰かの手を借りずに生きていくことを決めていた巡だったはずが…。
「助けてあげよっか?」
突如現れたカーヤのその一言で、巡はその差し伸べられた手を掴んでしまった。
しかし、久しく聞くことのなかったその言葉が、巡には嬉しかった。誰かの手を借りていいんだと気づかせてくれる言葉だった。
カーヤがそれを気づかせてくれた。
そして、その少女が力を貸してくれと自分を頼ってくれている。
それが、どれほどの喜びであるか、巡にもわからないほどのものであったのだ。
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