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第20話 死にたくないから死なないように
―俺は…助けてもらって嬉しかった…。頼られて嬉しかった…。誰かが、俺を見てくれている…。それを気づかせてくれたのは…。
正気に戻った巡が最初に目にしたのは、涙目のまま、胸ぐらを掴み揺すり自分に呼びかけるカーヤの姿だった。
「しっかりしなさい!!」
「あ…ああ。もう、大丈夫だ…」
やや虚ろな意識が残りながらも、巡はカーヤにそう告げた。
「……ありがとうな」
巡のその一言には、過去の自分と決別させ、誰かといてもいいという気持ちを思い出させてくれた感謝が詰まっていた。
しかし、カーヤはそんなこと知る由もなく、ハッとし巡の胸ぐらを投げ捨てるように離した。
「な、なにお礼なんか言っちゃってんの!?あんたがアホ面で惚けてたから、揺すって遊んでただけよ!しょうがないわね、まったく!」
怒った口調ではあったもののどこかホッとした様子のカーヤ。
巡はフッと小さく笑い、立ち上がった。
「それで?どうなのさ?命を落としてもいい覚悟があるのかい?」
その様子を静かに見ていた大老が、語り掛けた。
巡は先ほどとは打って変わり、臆することなく答える。
「命を落とす覚悟はないです!」
巡はそう言い放った。
この回答には、カーヤはもちろん、大老までもが驚いた。
「ということは、契約はしたくないということでいいのかな?」
「それも嫌です!」
巡は間髪入れずに答える。
「命を無駄に考えるつもりは全くありません。生きていたい。死にたくない。死んだら2度とアニメが見れなくなっちゃうし。…でも、だから、契約しないってことにはならないと思うんです」
巡は、一歩前に出て声のボリュームを上げる。
「俺しか!このカーヤちゃんを助けてあげられないなら…そういうの度外視して、やるしかないじゃないですか。頼ってくれるなら、こんな俺を必要だった言ってくれたから、それに答えてやらないわけにはいかないと思うんです!」
「魔導志として契約する以上、現代社会で生きる人間よりも死の危険が数倍に跳ね上がると言ってもいい。それでも契約すると?」
「死ぬ覚悟ができてないんで、死なないようにするしかないです。何があるかとか全くわからないですけど、契約しないって選択肢は俺にはないです!」
巡はそう言い切った。まっすぐな目で。
その様子をまじまじと見せつけられ、大老は最初のような飄々とした雰囲気に戻り、笑った。
「ははは、『契約はするけど死にたくないから死なないようにする』?何だいそれは。何も答えになってないじゃないか、ははは」
大老はしばらく自身の腹を抱え、膝を叩きながら笑っていた。
「フランクにクールに。フランクールにって言ったけどさ。君は、さらにその上、フールだね、ははは」
「フールってなに?」
巡はカーヤに聞く。
「馬鹿」
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