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第22話 息ぴったり
「え…合格?」
大老が小さく呟いた『合格』という言葉に、聞こえていながらも巡は聞き返した。
「そそ。合格だ。君が契約するに値する魔導志だと僕が判断した、ということだよ」
巡はその言葉を聞いて、少しの間の後、力が抜けたようにそのままその場に座り込んだ。
「よかったぁー」
安堵の声を漏らし、巡はカーヤの方を見る。
「よかったな、カーヤちゃ…!?」
巡が目にしたのは、口の端を微かに緩めながら息を吐き、一筋の涙を流すカーヤの姿だった。
そしてカーヤも、その場に座り込む。そして仰向けに倒れる。
「お、おい。大丈夫か?」
巡が心配の声をかけるが、カーヤは巡に背を向ける。
「うっさい、バカ…。こっち見んなバカ」
その声は僅かに震えていた。
おそらく自分の想像以上の想いがこみ上げてきているのだろうと、巡は感じ取り、それ以上何も言わずに静かにカーヤの頭を撫でるのだった。
「なに勝手に触ってんのよ…。張っ倒すわよ…」
口ではそう言いつつ、カーヤが巡の手を払うことはなかった。
「ささっ、じゃあ契約することは決まりということで」
そう明るく大老は両手をパンっと合わせる。
すると巡たちがいる広場の内装は一瞬で変わり、豪華絢爛な屋敷の客間のように変わった。天井からは大きなシャンデリアが光り輝き、ソファやテーブルなども重厚でいかにも高級そうなものだった。
突然に目の前で起きた魔法現象に、巡はカーヤの頭を撫でていた右手でバシバシとカーヤの肩を叩く。
「ちょっ!?カーヤちゃん!!見てヤバいよ!!部屋が変わった!!いつまで寝てんの!見なって、ほら!」
無視をするカーヤ。
「見てよアレ!壁からシカの頭生えてるんだけど!?やっば!これも魔法だよね!これ全部魔法で出したってことだよね!?すげぇ!やっぱ魔法凄いよ!カーヤちゃん見なってば!」
「うるっさいわねっ!!!!!!!そんな何回も言わなくても見てるわよ!!すごいのなんて見りゃわかるわよ!!!何度も何度も叩きやがって!!!」
あまりの巡のウザさに、カーヤは勢いよく起き上がり反撃する。
「いててててててっ!?ちょ、そこはダメだって!引っ張るなよ、そんなところ!こんなところで!!大老様が見てるだろ!」
「誤解されるような言い回ししてんじゃないわよ!耳よ!私が引っ張ってるのは!!」
華やかな一室で、大老の前で喧嘩を始めた巡とカーヤ。
「ははは」
大老はその光景を見て笑った。
その大老の笑い声に、巡とカーヤはハッとする。
カーヤが巡の耳から手を離し、慌てて大老の方へ体を向ける。
「す、すみません。身分をわきまえずに…」
「いいっていいって、カーヤ・エヴェル・トラーラ。そうかしこまらなくて。そして物凄く今更感があるしね」
大老が笑いながら言う。
「しかし君たち、さっき逢ったばかりだと言っていたけれど、僕から見るに、息ぴったりといった感じなんだけれど」
茶化すようにそう言った大老。
「「いやっ!そんなことは…!」」
巡とカーヤの声が重なる。
「ほらね」
大老はまたしても笑った。
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