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第23話 お望みの場所
「まぁまぁ、まずは座りなよ。お茶でも出すよ」
巡とカーヤは顔を見合わせ、大老に言われるがままソファに腰を下ろす。
「どうぞ」
すると、背後から突然女性が、お茶の入ったティーカップを二人に差し出した。
「!?」
―え!?いつの間に!?
気配も何も感じなかった場所から現れたその女性に、巡とカーヤは驚く。
銀髪のロングヘアに真っ白の着物を着ているすらりとした美女だ。
「熱いうちにお召し上がりください」
耳から脳を伝わり、神経の内側から癒すようなそんな柔らかく美しい声だった。
「あ…はい」
巡は差し出されたお茶を、一口飲み、続いてカーヤもカップを持ち上げ飲んだ。
「ごゆっくり」
銀髪の美女はそう言い残し、巡たちの後ろに下がる。
巡がお茶を飲みながら、なぜか背後が気になり、後ろを振り返るがそこにもう女性の姿はなかった。
―なんでもありだな…。まるで…じゃなくて、まさしく魔法…だな。
改めて魔法に感心する巡。
「契約するのは決まり。その前に、逆に君たちの方から僕に聞いておきたいことはないかな?」
大老がそう言うと、巡はスッと手をあげる。
「あの…。ここに来た時から気になってたことで、俺のことを颯って呼ぶのはなんでなんでしょうか?俺、麻道巡って名前なんですけど」
「あぁ~、そっかそっか。それは困惑するよね。愛称というかあだ名みたいなものさ」
―愛称…。
「まっ、そこに深い意味なんてないよ。風弦の魔導志は、風の魔導を得意とするから『風に立つ』と書く【颯】という名前で呼んでいる。ただそれだけさ。他の魔導志もね。垓も虚も焔も邪も永も澪も漆も晄も。ただの呼び名さ。気にしないでいいよ」
―なんだ?いっぱい名前が出てきたけど…、他の魔導志か。
「あ、わかりました」
巡は特に意味がないのだとわかり、そう答えた。
「他に何か、質問はあるかい?もしなければ早速、このまま契約の儀に入ろうと思うんだけれど」
「あ、あの!」
大老の言葉に、カーヤが声を上げた。
「おっ、なんだい?カーヤ・エヴェル・トラーラ」
なぜかカーヤは顔を少し赤らめ答える。
「えっと、その…。契約する場所はこちらで決めてもよろしいのでしょうか…?」
―場所?
疑問に思い、巡はカーヤに聞く。
「ん?契約する場所がなにか意味あるの?」
「うるさい。あんたは黙ってて」
カーヤに制止され、巡は何も聞けなくなった。
大老も一瞬、不思議そうな顔をするが、何かを悟りニヤリと笑う。
「あーあー。なるほどなるほど。そういうことか。ははは、君も女の子だねぇ。いいよ。三角房内であり僕が立ち会えさえすれば、基本的にはどこでも契約はできることになっているからね。お望みの場所を指定しなよ」
それを聞いて、カーヤは恥ずかしそうに答える。
「えっと…じゃあ、その…。『星渡の海峡』で」
「ははは、最高じゃないか。よし、そこにしよう。ピッタリだと思うよ」
そう言って、大老は立ち上がる。
―え、ここで契約しないの?場所移動?『星渡の海峡』?なにそこ?え?
話が全く見えず、置き去りの巡をよそにカーヤは立ち上がる。
「ほら、早く立ちなさい、しょうがないわね!」
差し出されたカーヤの手を、巡は掴み立ち上がる。
「じゃあ行くわよ」
そう言ってカーヤは深く息を吐く。
「風来図」
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