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第4話 最大の武器
「ところで、君はだれ?」
巡の当然ともいえる質問であった。
「………。人に名前を聞くときはまずは自分から名乗るのが常識じゃない?あんたの受けた義務教育じゃそんなことも教えてくれなかったの?」
なぜか挑発するように少女は巡を見る。
「いや、君さっき俺の名前言い当てたよね?名乗る必要ないんじゃ…?」
困惑する巡に少女は食い気味に答える。
「甘いっ!カヌレより甘いっ!!こんな美少女の名前をタダで聞こうなんてそんな都合のいいように世の中出来ていないのよ!」
―自分で美少女って言った…。
謎の熱弁を語る少女。
「だから、俺の名前もう知ってるじゃん。麻道巡だってば」
「知ってるわよ」
何を今さらという顔で巡を見つめる少女。
―なんだ…こいつ…。
まともな話が通じないことを巡はこの時気付いた。
「そう。そんなに私の名前が聞きたい?まぁ、確かにこんな美少女を目の前に名前くらい聞いとかないと一生後悔が残るかもしれないからね」
―また美少女って言った…。
少女は再び足を開き、両手を腰に置いた。
「私の名前はカーヤ!カーヤ・エヴェル・トラーラ!!八弦からなる魔法陣の内の風弦を司る美少女魔法氏よ!!」
巡は押し寄せる情報量を脳内で必死で整理する。
―カーヤ・エヴェル…なんだって?それ名前?ていうか、八弦って何?風弦って何?魔法氏?誰が?ちょっと待って、情報量多すぎるって。いや待て。ここで変にリアクションしたら、こいつの思うツボなんじゃないか?一旦冷静に…。
「へぇ~」
内心では状況を理解することに戸惑い気味であったが、このカーヤと名乗る少女にそれを悟られまいと、巡はその一言で片づけた。
「え?それだけ?」
巡の思惑通り、カーヤは肩透かしのようなリアクションを取る。
―よし!思った通り!
巡は心の中でガッツポーズを決めた。
「まぁ、別に?魔法氏って要するに魔法使いでしょ?魔法少女好きの俺からしたら、魔法使いなんて見慣れたもんだし?そもそもこんなありえない状況にいるわけだから、信じざる負えないし?君の名前だって、別に普通っちゃ普通かな?世の中にはもっと長い名前とかあるし?『キスショット・アセロラ・オリオン・ハートアンダーブレード』とか『ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイ』とか。オタクの俺からしたら逆に覚えやすいっていうか」
巡が喙長三尺にカーヤに、いかに自分が冷静であるかを暑苦しいほどに伝える。
カーヤは何も答えない。
ふと、巡がカーヤを見ると、カーヤは肩を震わせている。
「えっ?」
ローブの裾を握りしめ、顔を真っ赤にし、目に涙を浮かべている。
「もっと…、びっくりしてくれるかと…思ってた…」
「えー!」
―なにっ!?あんなに強気で高飛車だったのに打たれ弱っ!!えっ…嘘。これ、俺が泣かしたの???
巡はすぐにカーヤに駆け寄る。
「…ぁあー!よく考えたら魔法使いってすごくねっ!?しかもこんな可愛い子が!?こんな美少女が!?うっそ!?それはビックリだわ!待って!そういえば八弦ってなんだろ!風弦ってなんだろ!?気になるなぁ~!それに名前もすごいな!カーヤ・エヴェル・トラーラ?すごい!なんかもう…すごい!!オシャレというか高貴というか、只者じゃない感が否めない!否めざるを得ない!!こんな子に助けてもらえるなんて俺って幸せ者だなぁ!」
先ほどまで装っていた冷静さをかき消すように、巡はカーヤをなんとか慰めようと熱弁した。
「………ホント?」
「うっ…!」
上目遣いで目に涙を溜め、そういうカーヤを巡は可愛いと思ってしまった。と同時に、涙は女性の最大の武器であることも再認識した。
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