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第8話 いかにもな絨毯
話は再び、三角房を訪れた巡とカーヤに戻る。
小さく咳払いをしてから落ち着きを取り戻したカーヤは語りだす。
「コホンッ。しょうがないから、まずは順を追って説明してあげる。ここは三角房。魔術の祖が作り出したとされる現実とは全く異なる亜空間世界。時間の概念も存在しない。三角房にいる間は現実世界とのタイムリンクが切断されて、ここで何年何十年過ごそうが、現実世界での時間はカウントされないの。例えば、2000年4月1日の12時に現実世界から三角房にやってきたとする。そしてここで10年を過ごして、現実世界に戻っても現実世界は2000年4月1日の12時ってわけ」
「おおぁ…。THE 魔法」
中々に奥深い情報を聞きながら、巡は浅い返答で返した。
「あんたが、ここで何日過ごそうが、現実世界に戻った時は出発した時間と同じってこと。つまり!『時間はとらせない』って言った私の言葉は、ここにいる限りどれだけあんたを拘束しようが嘘にはならないってことよ!!うわっはっはー!!」
お決まりのポーズにさらにのけ反りを加えて、悪の親玉のようにそう笑うカーヤを巡は冷めた目で見つめた。
「…俺は家には帰れるのか?」
そう問いかける巡。
「そこはなにも心配いらないわ。ここでの用事が済めばすぐに現実世界に戻してあげる」
「用事って?そもそも、俺はここに連れてこられて何をすれば」
巡がそう言い終わる前に、巡とカーヤを覆うように足元に長方形の影が出現する。
「!?」
「来たわね…」
巡とカーヤはお互いに空を見上げる。巡は戸惑いに満ちた顔を浮かべ、カーヤは笑みを浮かべながら。
二人の頭上高くには8畳ほどの大きさはあろうあずき色の生地に金色の刺繍が無数にあしらわれた、いかにもな絨毯が空中に停滞していた。
「魔法の絨毯…?」
巡がボソッと呟く。
魔法の絨毯ならば、それを操縦する者が乗っているはず。しかし、二人の位置からはその人物を確認することができない。
しかし、カーヤはその絨毯に大きく手を振り、呼びかける。
「おぉ~い!パナード!!こっちよ、こっち~!」
―パナード?
絨毯はゆっくりと高度を落とし、降りてくる。
徐々に絨毯の死角から、その操縦者の姿が露わになっていく。
「お久しぶりですわね、カーヤ」
そう言いカーヤに微笑みかける人物は、またしても、巡が初めて見る少女であった。
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