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大切な……
彼――市之瀬 健悟と私、工藤 優は、同い年で同じ小学校と高校に通った幼馴染みだ。
正確には、健悟は小学5年生の時に私が通っていた小学校に転校して来た転校生だったのだが――ファーストコンタクトは最悪だった。
なんせ、お互いがお互いを気に入らず、流血沙汰になるまで取っ組み合いをした位なのである。
まぁ、当時の私がいじめや虐待に遭い、完全に荒みきっていて……誰彼構わず因縁をつけていた所為でもあるのだが。
ともあれ、この幼馴染みはーー親友となった後は、一度は全てから逃げ出して行方をくらました私を見つけ出してくれたり、孤独に堕ちそうになる度に手を差し伸べてくれた、私にとって掛け替えのない存在なのである。
ただ、行動力がありすぎる所がかなり困りものなのだが。
イギリス人と日本人のハーフである健悟は、ふわふわしたアッシュブロンドに、透き通ったアクアマリンの瞳をした、黙っていれば人形の様に美しい青年だ。
が、見た目と中身は伴わないことがあるとはよく言ったもので、
「優ー!あいつら、この前俺達のこと蹴ってきたじゃん?ムカつくからさ、靴に裏山で捕まえた百足入れてやった!今頃超驚いてるぜ!あ、優と俺の名前で挑戦状も入れといたから!」
止めろ止めろ、私を巻き込むな。
「なぁなぁ、優?生徒会の文化祭の出し物なんだけどさ?超巨大お化け屋敷風迷路なんてどうだろう!しかも、一定の時間が経過したら、キングコングが追ってくるんだぜ!そしたら、超盛り上がるんじゃね?」
それは盛り上がってるんじゃなく逃げ惑ってるって言うんだよ。
「優、優!修学旅行のホテル、班で決めて良いらしいぜ!このアフリカの民族風の部屋があるホテルなんてどうよ?原住民の人が実際に使ってた戦い用の仮面が飾ってあるらしいぜ?」
私はそんな部屋で寝起きするのは嫌だ、魘されるわ。
とまぁ、こんな風に行動力のあるーー悪い意味でアグレッシブな青年だったのである。
故に、彼が留学を決めた時も、
「え、優、アメリカ行くの?ふーん。じゃぁ、俺も行く。優いないとつまんねぇし。それに俺、特に日本でやりたいこともないからなぁ」
こんな具合に、良くも悪くも即断即決だったのである。
無論、1人で海外生活を謳歌したかった私は全力で大反対した。
この無駄にアクティブな幼馴染みが来れば、今までの様に厄介ごとに巻き込まれるのは目に見えていたからだ。
しかし、我が両親は無情にも私の必死の願いを却下した。
「あら、一緒に行ったらいいじゃない。寧ろ、健悟君がいたら安心だわ。やっぱり、1人で留学なんて心配だもの。健悟君、うちの優をお願いね?」
とても嬉しそうな笑顔でそう話す母親。
私はとてもじゃないが、母には言えなかった。
(……母さん。誰よりコイツがトラブルを起こすんだよ)
と。
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