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ひとめぼれ
1、そこは市の中でもとりわけ片田舎といっていい場所だった。香芝市伴壮地区。中心部の街五位堂から北へ車でおよそ10分の距離に位置する。昔ながらの家屋が立ち並ぶその伴壮地区は山や田畑などの自然に恵まれ、昔から農業が盛んなところである。長年にわたりこの地で暮らしてきた人々にとっての生業とはいわばコメ作りに作物栽培だった。
日本は四季の訪れる国である。年間を通し様々な景色が見られるのはもちろん、伝統文化や行事にだって趣きを感じることができる。伴壮地区においても稲作から始まる春に盆踊りの夏、祭りは秋と季節の中でやることも様々なのだ。町が静まり返る冬は自治会の中で行う餅つきが当たり前となっている。ところが今、この地区にある変化が訪れ始めていた。昨今の少子高齢化に伴う影響が急速に広がりをみせ、至る所で空き家が増えているのだ。そもそも住んでいる住人のほとんどが70代以上の高齢者である。年齢ともに体を動かすのが厳しくなっていったりするのはもちろん、病気を患う人も少なからずいる。かつてはこの地で普通に暮らしていた若者もいつしか都市部へと出ていってしまった。こりゃあかん。近いうちにここも人がおらんようになってまうわ。町内会長も頭を抱えてみせるばかりである。
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