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口の中に広がる血の味。
オレは何かに覆いかぶさり、大きく口を開いて噛み付いていた。それが人のうなじだと分かった瞬間、その驚きと衝撃にすぐさまそこから口を離す。するとその拍子に身体も離れ、ずるりとした感覚が下肢を襲う。
何が起こったのか分からない。けれど広がった視界に、信じられない光景が映る。
オレはそのあまりにも衝撃的な光景に、その場にへたり込み、呆然とする。
そこにはうなじから血を流し、むき出しの下肢から白濁を流しながら横たわる一人の少年がいた。
何があったのかは明白だった。けれどそれを自分がしたことが信じられない。
これをオレが・・・?!
状況からから考えて、オレがこの人を襲い、犯した上でうなじを噛んだのだろう。けれどそのことに驚きはしたが、不思議とそこに恐怖も罪悪感もなかった。それになぜか、不思議な思いが湧き上がってくる。
愛おしい。
なぜだろう。どこの誰かも分からない、初めて会った人だと言うのに愛おしくて仕方がない。そして自分のものになったことが嬉しくて堪らない。
そう。この人はオレのものだ。
どうしてだか分からないけど、この人はオレのものだと分かる。
覚えていないが、オレは確かにこの人を襲っのだろう。そんな酷いことをしておきながら、愛しいなんておかしな話だ。だけどオレの中に湧き起こる独占欲。
この人はオレのものだ。
誰にも渡さない。
それがどんなに危険な思いなのか。
冷静に考えれば、それがどんなに凶悪な犯罪行為なのか分かっただろう。だけどこの時のオレは、この人を手に入れることしか考えていなかった。
オレは立ち上がるとその人の所へいき、そっと抱き起こすと汚れた下肢を拭う。とは言ってもハンカチ程度のタオルしか無かったので簡単にしかキレイに出来なかったが、それでも残滓や泥を拭き取り、衣服を整えた。
おそらく、激しくことを行ってしまったのだろう。その人は目を瞑ったまま起きない。眠っているのか、気を失っているのか、こんなに身体に触れているのに起きることは無かった。
キレイな人。
目を瞑っていても、その人がキレイな人だと分かる。
おそらくオメガなのだろう。
整った顔に華奢な身体。それになんとも言えないいい香りがこの人の身体・・・特にうなじから香っている。そしてその香りは甘美な麻薬のようにオレの身体を縛り付ける。
オレはその人をぎゅっと抱きしめ、そのうなじに顔を埋める。そしてその香りを胸いっぱいに吸い込み、そのうなじを舐めた。
そこはオレが噛み付いた歯跡がくっきりと付き、まだわずかに血が出ていた。
オメガがうなじを噛まれる行為。
それは番になる儀式だ。
そしてそれをやったオレは・・・。
オレはここに来るまで、自分の第二性について悩んでいた。アルファとして育てられ、アルファでなければならない。だけど本当にオレはアルファなのか。
その診断を前に、オレは夜も眠れないくらい不安に怯え、恐怖した。なのに今は、あんなに悩んだのが嘘のように分かる。
オレがアルファだということが。
オレは間違いなくアルファで、そしてこのオメガはオレのオメガだ。
誰にも渡したくない。
このまま腕に閉じ込めて、誰の目にも触れさせず、オレだけのものにする。
そんな独占欲がオレの身の内で激しく渦巻く。
たとえ嫌がり暴れても、その身を縛って放さない。
こんなことをしたのだ。この人はきっとオレに恐怖し逃げようとするだろう。だけど、そんなことは許さない。
なんでこんなに愛しいのだろう。
今まで誰かをこんなにも特別に思ったことは無いし、ましてやこんな・・・欲情なんて起こしたことは無かった。当然うなじを噛むなんて、想像すらしなかった。
なのに、この身を焦がすようなこの思いはなんだろう。
ここで会うまで、全く知らなかった人だ。一目惚れなんてものでは無い。だってオレは、この人の顔をいま初めて見たのだから。
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