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どんなに親や一族が反対しようと、オレはこの人を手放さない。もうオレがアルファなのは分かっている。ならばこの家を継ぐことも確定だ。だったらその権力を使ってでも、オレはこの人と正式に番になり、ゆくゆくは結婚するのだ。
本来なら同盟を結んでいる一族のオメガと結婚するところだが、現時点においてオレと見合うオメガは生まれていない。だったらこの人でも構わないはずだ。
必ず、一族の者を説得してみせる。
そう決意したオレはふと、まだこの人が起きてこないことに気づいた。
もうお昼なのに。
顔を覗いても具合が悪そうには見えない。
熱があって息が苦しそうな訳でもない。
いつものように、静かに寝息を立てて眠っている。
昨夜も激しくしてしまったから、きっと疲れが出てるのだろう。
毎夜のように求め、求められ、オレたちはまるで何かに急き立てられるかのように身体を重ね交わった。
さすがに連日はきついだろうと思っても、その人はオレを求めた。オレもまたそれを望んでしまうので、結果的にことが始まり、いつも気絶するようにその人は眠った。
だけどいつも朝は必ず起きるのに・・・。
さすがに起きてこないことが心配になってくる。そして夕方になっも夜になっても起きてこず、オレは焦り始める。
起こした方がいいのか・・・というか、起こしていいのか?
どうしたらいいのか分からない。
オレはただその人が眠るベッドの横でオロオロするしか無かった。けれどその時不意に、初めて会った日のことを思い出す。
『眠るのが趣味で大好きなんだけど、もし起きなくてどうしたらいい分からなくなったら、ここに電話してね』
そう言って電話番号のメモを渡してくれた。
その時は、どうしていいか分からなくなるまで寝るなんてないだろうと思って、大して気にも止めなかった。実際、その後も良く寝はしたが、ちゃんと起きてきたから。
あのメモ・・・。
オレは急いでそのメモを探し、電話する。すると数回のコールで相手が出た。
知らない相手からの電話に警戒する声音は、オレの言葉に焦りに変わり、そしてすぐ来ると告げて切れた。そして現れたのは、その人の母親だった。
本来なら宿泊しているはずのところではなかった場所に驚く母親に、オレはなぜその人がうちの別荘にいるのか、そしてオレたちがどうなり、どんな関係になったのかを説明した。
オレは話しながら、きっと反対されるだろうと思った。だって母親だ。まだ成人前の息子が黙って知らないアルファと番になり、一緒になりたいと言うのだ。そんなことを急に言われても、すぐに納得できる話ではない。ましてやその本人ではなく、相手のアルファが言っているのだ。その話が本当かどうかも怪しい。だから信じてすらもらえないかもしれないと思った。
けれど、母親はオレの話を黙って聞き、最後に頭を下げた。
「この子を、幸せにしてくれてありがとう」
それは予想外の言葉だった。
だからオレは許してもらえたと思ったのだ。けれど、その続きの言葉にオレは言葉を失う。
「でももう、ここまでにしてください。この子は私が連れて帰ります」
そしてその人を抱きあげようとする母親の手を、オレは咄嗟に掴んだ。
「なぜですか?オレは本気です。本気で愛してます。本気で結婚するつもりなんです」
オレの必死の訴えに、母親は肩を震わせてその場に崩れ落ちる。
「だからです。あなたの気持ちもこの子の気持ちも分かります。母親ですから、いくら眠っていてもこの子がいま幸せかどうかは分かります」
「だったらどうして・・・?!」
オレも母親の前に膝をつく。そして気づいた。彼女が泣いていることに。
「いまこの子を連れて帰れば、あなたの中でこの子とのことは幸せな思い出として残ります。そうして欲しいのです。幸せだったことだけを覚えていて欲しい・・・」
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