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makoto 2
じめじめとした梅雨が明けていよいよ夏到来、という朝、オレは姿見の前でにらめっこをしている。
「どうしたの?真琴」
朝の出勤の支度で首にネクタイをひっかけた当麻が後ろからオレを覗く。それを見てオレは振り返り、当麻のネクタイを結んでやると、ありがとう、とおでこにちゅっとされた。
「この頃お腹出てきたな、と思ってさ」
再びオレは鏡に向かい、今度は横を向く。横からだとさらにお腹が目立つ。
今年の梅雨は気温が低くて重ね着をしていたのだけど、昨日その梅雨が明けたらいきなり真夏日予報。その予報を見て夏の装いにしてみたら、お腹の膨らみが目立つようになってしまったのだ。
「たしかにここ数日でぐっと大きくなった気もするけど、別に薄着にしなくてもいいんじゃないの?お店の中は空調効いてるわけだし」
「そうなんだけど、あの気温を見たらなんか暑く感じてさ」
お店の中は常に節電対策で28度設定だから、外に出なければ外の気温は関係ないけど、なんて言うか気分?
「まあ分かるけど、僕はお腹が冷えないか心配だよ。それに・・・」
当麻はオレが持ってるエプロンを指さした。
「エプロンしちゃったら同じじゃない?」
その当麻の言葉にオレはあっとなった。たしかにエプロンするから何着たって同じだ。
当麻の言葉で初めて気づいたけれど、横の姿を映した鏡を見て思う。
これ、エプロンしてても横からなら分かるんじゃない?
当麻が言うように、ここ数日でたしかにお腹が大きくなってる。
それを後ろから見ていた当麻も気づいたのか、おや?という顔をする。
「・・・まあ、これからもっと大きくなるし、隠し通せる訳でもないから諦めたら?」
少し苦笑い気味でそう言うと、当麻はオレの後ろから手を伸ばしてオレのお腹を摩る。
「そうだけどさ・・・」
お腹を愛おしそうに摩る当麻の手にオレも重ねる。
これからこの子はどんどん大きくなって、もっとお腹はパンパンになるだろう。母の話だとおへそがひっくり返るらしい。
「大丈夫。みんな優しい人達だろ?」
そう言うと当麻は手を止めてオレを抱きしめてくれる。その温もりと香りがオレを包み込み、気持ちを落ち着かせてくれるけど、やっぱり少し不安になる。というのも、実は常連さんたちに妊娠のことを言ってないのだ。妊娠どころか、番になったことも結婚したことも言っていない。そもそもオレがオメガかだってことも知らないのだ。
ここは元々アルファもオメガもいない様な小さな町だ。ベータしかいない町の人達にとってはアルファもオメガもどこかよそ事で、それこそテレビや雑誌の中だけに存在する・・・つまり芸能人的な感覚なのだ。それにフェロモンを感じないのでアルファもオメガも分からないし、まさかこんな近くにいるとは夢にも思っていない。その証拠に飛び抜けて容姿のいい当麻や拓真を見ても、イケメンとは思ってもアルファだとは思わないのだ。
ノアが来た時だって可愛い子と騒いだけれど、オメガだとは誰も言わなかった。
そんなところで男オメガの妊夫なんて言ったら、どう思われるんだろう・・・。
東京でもアルファオメガ夫夫をよく思わない人達はいる。ベータの人達には、いくら第二性的には何もおかしくないといっても同性カップルに見えてしまうのだ。その上男の妊夫なんて気持ち悪い、と思う人も実は少なくない。
オメガが普通にいる東京でもそうなのだ。ベータしかいないこの町の人達には、さらに受け入れ難いのではないだろうか。
マスター夫妻はここに店を構えた時にはすでに発情期も落ち着いてからだったため誰にも気づかれず、夫妻もわざわざ言うことをしなかった。そのため長年の常連さんですら夫妻がアルファオメガ夫婦だと気づいていないのだ。
マスター夫妻はノアのことも孫嫁ではなく一緒に住んでる子と紹介してたし、お二人もこの町の人たちがアルファオメガ夫夫をどう捉えられるのかが分からなかったのだと思う。
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