makoto 2

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知らず出てしまったため息に、当麻が頭を撫でてくれる。 「万が一受け入れられなかったとしても、僕はずっと真琴のそばにいるよ」 そう言って優しくキスをしてくれる当麻に、オレの方からも唇を重ねていく。 「愛してるよ、真琴」 「オレも・・・愛してる」 そうして何度もキスをして、当麻は出勤して行った。 さて、オレも腹を括ろう。 オレは結局、空調でお腹が冷えないようにいつもと同じ重ね着にエプロンをつけて店に降りた。そして開店準備をする。 そして程なくしてやってきたノアと一緒に時間通り店を開けると、それを待っていた常連さんが次々に入ってきた。 いつもの朝が始まった。 いつもの顔ぶれがいつもの席につき、いつもの会話が始まる。 それを今ではにこやかに応対できるようになったノアとともに捌いていく。 そして忙しい時間が過ぎて常連さんだけのまったりコーヒータイムになると、ノアはカウンターに座って日本語の勉強を始める。それを横で常連さんが教えてくれるというのが最近の光景だ。 ノアもすっかり常連さんに受け入れられて可愛がってもらっている。 実際ノアは素直でがんばり屋だから、みんなノアを助けたくなるようだ。 オレもそんなノアを見守りながら、お客が帰ったあとのテーブルを片づけに行く。するとそれを見たノアが手を止めて立ち上がろうとするからそれを手で止めて大丈夫だと言ってやる。 せっかく常連さんが教えてくれてるんだから、そのまま教えてもらえ。 そう思ってカウンターを出て食器を持って戻ってくると、常連さんの一人がふとなにかに気づいたようにオレを見た。 「なんだかまこちゃん、ふっくらしたかしら?」 その言葉にオレはドキッとする。けれどそれに気づかない他の常連さんが話に加わってきた。 「やっぱりそうよね?私もそう思ってたのよ。それに最近、表情もやわらかくなったと思わない?」 そう言うとまた他の常連さんも加わって、最近のオレが変わってきたと言う話になった。 ああ・・・もう誤魔化せないよな・・・。 オレは意を決して口を開いた。 「やっぱり分かりますか?」 その言葉に、みんながオレを見て微笑んでくれる。 「分かるわよ。なんだかまこちゃん、全体的に丸くなった気がするわ」 「そうそう。見た目だけじゃなくて、雰囲気も優しくなったわね」 「もしかして、彼女が出来たのかしら?」 次々に出てくる常連さんたちの言葉。主に話してるのはご婦人の常連さんだけど、男性の常連さんも頷いている。その様子に、結構前から気になっていたことが伺える。 でも、『彼女』か・・・。 ちょっと気持ちが折れそうになるけど、言うなら今しかない。そう思ってオレは、『実はそうなんです』と答えた。するとどよめく店内。 「やっぱりねぇ」 「幸せ太りかい?」 「いつからなの?」 などと次々に上がる常連さんたちの温かい声に、オレはカウンターの中には戻らずにお腹に手を当てる。すると強調されるお腹の膨らみ。 「実は春に結婚しまして、秋には子供が生まれるんです」 オレの言葉に静まりかえる店内。そしてお腹に注がれる常連さんたちの視線。 やっぱりダメなのか・・・そう思って胸が痛くなったそのとき、常連さんの一人が声を上げだ。 「まあっ」 一瞬悲鳴かと思ったその声は歓喜の声だった。 「やだっ。まこちゃんお腹に赤ちゃんいるの?」 そう言って笑顔で駆け寄って来た常連さんを皮切りに、次々と椅子から立ち上がってオレのところに来る他の常連さん達に、オレはあっという間に囲まれた。そして一斉にかかるお祝いの言葉の数々。 その思いもかけない反応にオレの視界は歪み、気付けば涙が流れていた。 「やだ、泣いてるの?まこちゃん」 そう言って背中を摩ってくれる常連さんにまた涙が出てくる。
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