makoto 2

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「だって・・・気持ち悪くないですか?男が妊娠なんて・・・」 するとハンカチでオレの涙を拭ってくれた常連さんが『何言ってるの』と声を上げる。 「気持ち悪いなんて思うわけないでしょ?ちょっとびっくりしたけど」 「そうよ。なんで気持ち悪いの?こんなにおめでたいのに」 「なんだい、そんなこと気にしていままで言えなかったのかい?そんなこと思うわけないだろ」 ちょっと呆れたようにそう言われ、オレの涙はさらに流れる。 そんなオレをみんなで慰めてくれる常連さんたちに、オレは心から感謝した。 「ありがとうございます」 いつもならこんなにすぐに泣いたりしないのに、涙が次々出てきてしまう。妊娠すると涙脆くなるというけど、オレは最近何を見ても泣いてしまう。 本当にみんな優しい。 常連さんたちはオレの涙を拭いたり背中を摩ったりしてくれて、その度に色々声もかけてくれる。そしてようやくオレの涙が止まったところで、ふと気づいたようにオレを見た。 「・・・という事は、まこちゃんてオメガ?」 「はい。オメガです」 オレが普通にそう答えると、常連さん・・・特にご婦人方が黄色い声を上げた。 「やだっ。オメガっ」 そう言うと食い気味に他の常連さんが続けて言う。 「じゃあまこちゃんの結婚した人って・・・」 「アルファです・・・けど・・・」 いささかその勢いに飲まれながらもそう答えると、ご婦人方はまるで少女のように手を組んでキラキラした目でオレを見る。 「じゃあじゃあ、まこちゃんと旦那さんはその・・・番なの?」 「・・・はい」 その瞬間『きゃーっ』と上がる歓声。 なんでもベータの方々にとってはアルファオメガは本当に物語の中の存在のようで、番という繋がりはとにかく憧れの的らしい。まるでおとぎ話の主人公を見るようにオレを見るご婦人方は、まるで夢みる乙女のようだ。 「まこちゃんがオメガだなんて」 「しかも旦那さんはアルファで番」 「「素敵ね」」 最後はハモってそう言うご婦人方を横目に、別の常連さんがノアを見る。 「そういえばノアくんもえらいキレイだけど、ノアくんもオメガなのかい?」 それまでふわふわと微笑みながらオレたちのやり取りを見ていたノアはいきなり話をふられてキョトンとなり、一瞬言葉を拾い損ねたらしい。 小首を傾げた姿がまた可愛らしい。 「ノアもオメガか?って」 オレがもう一度ゆっくり言ってあげると今度はちゃんと聞き取れたらしく、ぱあっと顔を明るくして小さく頷いた。 「はい。僕もオメガです」 ノアも特に秘密にしていた訳では無いけれど、あえて言う必要もないかと第二性までは言ってなかったのだ。 そんなノアの言葉にうっとりしていたご婦人方は、今度はノアのそばに駆け寄る。 「ノアくんもオメガなの?」 その勢いに一瞬たじろぐも、ノアは天使の微笑みを崩さない。 「はい。そうです」 「もしかして、ノアくんも番が・・・?」 「はい。僕はタクマの番です」 にこにこ眩しい笑顔でそう答えるノアに、ご婦人方は『まあっ』と言って頬を染める。 特にちゃんと話した訳では無いけれど、拓真がマスターたちの孫だということは常連さんの間では知られているようで、きっと二人のツーショットでも想像しているのだろう。 なんだか可愛い。 母よりも年上のご婦人を捕まえて可愛いなんて失礼だけど、本当に憧れの存在を前にして少女のようにはしゃぐ姿は可愛らしかった。 「じゃあノアくんのところも、いずれは赤ちゃんが来るのかしら?」 そういうご婦人の言葉に、ノアはぽっと頬を染めてお腹を摩った。 「実はもう・・・」 その言葉と姿に、店内の視線が一斉にノアのお腹に注がれる。そしてオレもびっくりした。 え? ノアも? 全く聞いていなかったことに、オレも他の常連さんのようにノアのお腹を見てしまう。
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