takuma 2

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takuma 2

もうすぐノアの発情期が来る。 今回はオレと番になって、そして日本に来て初めての発情期だから何か特別なことをしてやりたい。 もとより、いくら祖父母が使っていた寝室を譲ってくれたとはいえ、同じ屋根の下に祖父母がいるこの家で発情期を過ごすのはいくらなんでも嫌なので、他の施設を利用しようとは思っていたけど・・・。 今回は少し頑張ってみるか・・・。 オレはパソコンから、発情期プランがあるホテルを予約した。 アルファとオメガが発情期を過ごすホテルは都内に結構ある。まあ、長期のラブホみたいなものだ。その料金もクオリティもピンキリで、関係の深さや懐事情などから自由に選べるんだけど、オレが今回予約したのは都内でもかなり高級なホテルだ。 オメガの体質に合わせて5泊から日数は選べるけれど、ノアはいつもきっちり7日かかるのでオレは7泊を予約した。その料金は実に給料1ヶ月分位・・・。 家は祖父母の家だし浪費家ではないし、正直お金は貯まる一方で、こういう時に思い切り使うのもいいだろう。 そう思いつつ、ノアの喜ぶ顔を想像して顔がニヤついてしまう。 折角なので今回はサプライズにしようと、ノアには都内のホテルで過ごすとだけ言ってある。 だからノアは普通のホテルを想像していたと思うけど、いざ着いたホテルは超高級ホテル。世界でも名高いそのホテルの名をノアも知っていたらしい。 「タクマ・・・ここなの?」 発情期の影響で火照った頬を少し引きつらせて、ノアがオレの腕を掴む。 「たまにはいいだろ?」 そう余裕で言ってやっても、ノアの顔は強ばっている。そんな不安げなノアを促してフロントへ行くとチェックインを済ませ、いざ予約した部屋へ。そこはこのホテルのスイートだ。 さすが三つ星ホテルのスイートルーム。内装も上品で景色もいい。壁一面の窓からは東京の街並みが一望できる。 これは夜景も楽しみだな。 本当は料理も一流なのだけど、今回は発情期のための宿泊なので食事は軽食のみだ。簡単に摘めるものをこちらのタイミングでオーダー出来るようになっている。 今度普通の時に来てもいいかもな。 そう思いながら部屋の中に足を運ぶが、ノアがついてこない。どうしたのかと振り返ると、ドアのところで固まっている。 「ノア?」 名を呼ぶと引きつった顔をこちらに向ける。 「あ・・・あの、僕なんかが入っていいんですか・・・?」 その怯えるような震える声に、オレは笑って頷いた。 「もちろん。ノアのために用意した部屋だからな」 オレはそう言うとノアの傍まで戻り、腰に手を回して一緒に部屋の中に入る。 「今回はオレたちが番になって初めての発情期だから、その記念にここにしたんだけどノアは嫌だった?」 少ししょげ気味にそう言うと、ノアは慌てて首を横に振った。 「嫌じゃないです。嬉しいです。でも凄すぎて・・・」 必死にそういうノアが可愛くて愛しくて、オレはぎゅっと抱きしめた。そんなノアからまだ戸惑いの気持ちが流て来るから、オレは抱きしめたままその頭にキスをした。 「こんなオレと番になって結婚してくれたのに、式も新婚旅行もしてないだろ?これくらいさせてくれ」 それはオレの本当の気持ちだ。 ここに至るまで、オレは言わなくても伝わっているだろうという傲慢な考えでノアを不安にさせ、悲しませた。それなのにずっとオレを思っていてくれていただけでなく、そんな思いをさせたオレを許して受け入れてくれた上に、よく分からないこの異国の地(にほん)にまでついてきてくれた。 「ノアへの思いは、これくらいじゃまだ足りないくらいだ」 言葉も何も分からないこの地で、ノアは文句も言わず笑顔を絶やさず頑張ってくれている。そんなノアが愛しくて仕方がない。 「愛してるよ、ノア」 どんなに思っても、言葉にしなければ相手に伝わらない。
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