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兄はこの伊月さんとの結婚を母に反対されて家を出、それ以来連絡を断っていたのだ。だけどここにいるってことは・・・。
「仲直りしたの?」
別荘に行くってことだよね?
「仲直りも何も、オレは別にケンカしてるつもりはなかったよ。ちょっと母さんの頭が冷えるまで距離を置こうかと思っただけで。でも今回電話が来てさ」
聞けば僕と真琴のことを母がまだ反対している時、父からその話を聞いた兄が母に電話してくれたそうだ。
母とは取っていなかった連絡を、父とは取っていた事にも驚きだけど、僕のために母に電話してくれてたなんて。
でもその時はまだ母はつんけんしていたらしいんだけど・・・。
「いきなり母さんから電話が来てさ、今年は久しぶりに別荘にいらっしゃいって。伊月も連れて」
それはきっと、母の精一杯の謝罪だ。
謝るの嫌いだから。
なんかその時の母の姿が目に浮かんで頬が綻んでしまう。それは兄も同じだったのか、やっぱり口元が緩んでいた。そんな僕達を横で見ていた伊月さんの後ろから、真琴がトイレから帰って来るのが見えた。
「真琴」
名を呼ぶと直ぐにこっちに気づいた真琴は、その大きなお腹を抱えて歩いてきた。
もう走るのがしんどいのだ。
「あ、礼一さん。お久しぶりです。そちらは伊月さんですか?」
僕の隣に来るなりそう声をかける真琴に、兄も挨拶をする。
「そう、僕の奥さんの伊月だよ。伊月、こちらは当麻の奥さんの真琴くんだ」
そう紹介された二人は和やかに挨拶を交わし始めた。
付き合いの長い真琴は何度か兄とは会わせたことがあったけれど、伊月さんはちょうど真琴と別れている期間に兄と結婚したので、二人は初対面だ。
暑い中での立ち話もなんだとサービスエリア内のカフェで休憩を取って、ここからは一緒に別荘に行くことになった。
そして着いた別荘で母は笑顔で出迎えてくれて、心配した兄夫夫や真琴とのわだかまりもなく上機嫌で夕食をもてなしてくれた。
ほんと、今までの態度はなんだったのか。
同じことを思っていた兄と思わず顔を見合わせて苦笑いをした。そんなことを知ってか知らずか、母が真琴に話しかける。
「そう言えばまこちゃんのお父様、お加減はいかが?」
実は先日、真琴のご両親とうちの両親との初めての顔合わせを兼ねた会食を行う予定にしていたのだけど、真琴の父がケガして来れなくなってしまったのだ。
「はい、大丈夫みたいです。すみません、せっかく予定して下さったのに、ドタキャンみたいになってしまって」
「うちのことはいいのよ。また会えるときに会ったらいいわ。それよりもあちらこそ、早くまこちゃんに会いたかったでしょうね」
真琴は僕から姿を消してから、自分の居場所がバレてしまわないようにとご両親にも告げず、会うこともしてなかったのだ。
「うちは別に会わなくても平気です。元々高校から別に暮らしてましたし、大学に入ってからは年に1回会えたらいい方だったので」
そうにこやかに話す真琴に、僕も内心驚いてしまう。
そう言えば大学で知り合ってから真琴が帰省したところを見た事がない。
僕、真琴のこと本当に全然知らないんだな・・・。
以前真琴が実は純粋な日本人じゃないって知った時に、お互い少しづつ知っていけばいいって言ったけど、僕ばかり知らないことが多すぎる。
そんな落ち込みが伝わってしまったのか、真琴が母と話しながらテーブルの下で手を握ってくれる。
「でもあちらにとっても初孫でしょ?きっと会いたいと思うわ」
「そうですが、ケガをしてしまったのは仕方が無いことなので。逆に大事にならなくて良かったです。それにあの人のことだから、本当に会いたかったら何がなんでも会いに来るので大丈夫ですよ」
そう言って笑う真琴に母もその話を終え、違う話へと移った。
「そうそう、明日お客様がみえるのよ」
その急な話に、僕は驚く。
ここにお客様が来る?
見ると兄も驚いている。
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