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「お客様って・・・誰が来るの?」
親戚付き合いもなく、私的なこの空間に呼ぶほど親しい人もいなかったはず。なのに誰が来ると言うんだ?
「パパのお兄さま家族よ」
なんでもない事のようにさらっと言う母の言葉に、僕達はさらに驚く。
「父さんの・・・」
兄も驚いてるのか言葉が続かない。
ついさっき親戚付き合いがないと話したばかりの真琴も、瞬きを繰り返して僕達の話を黙って聞いている。
「なあに?嫌なの?」
僕と兄の反応に母が眉間に皺を寄せる。
「嫌とかじゃなくて、なんで急に来るのかを説明してよ。今まで付き合いなかったよね?」
そもそも、父さんに兄がいることすら知らないんだけど・・・。
「なんかめんどくさいことが解決したらしくて、久々に会うことになったったんですって。ね?パパ」
そう言って今まで一言も話していない父に話を振る。
「私も35年振りに会うからな。お前たちが知らないのも無理はない」
そう言ってまた黙ってしまった父。
父さん、それ答えになってませんよ?
そう思ってもそれ以上は訊けない雰囲気に、母のダメ押しの言葉。
「とにかくお客様がみえるのよ。分かったわね」
母のにこやかなその言葉でその話は終わり、夕食はお開きとなった。
そして父と母は二人で仲良く夜の散歩に出かけ、僕は真琴と自室で過ごしていたんだけど、何となく気持ちが沈む。
大学で知り合って8年。その間残念ながら2年は離れている期間があったけど、それでも僕は真琴のことをよく分かってると思ってたけど・・・。
僕って本当に真琴のこと、知らないんだな。
そう思ってたら、ベッドに座る僕の頭を真琴が優しく抱きしめてきた。
「そんなに落ち込む?」
真琴にはバレバレだ。
「オレだって、当麻の家が親戚付き合いがないとか、実は『蕪木』だったとか、知らなかったよ?」
「それは・・・結婚式の準備の時に話せばいいかと・・・」
当初の予定通り結婚式を挙げていたら、その準備の招待客のリスト作りとか婚姻届を書く時とかに分かる事だし、その時に話せばいいかと思ってたんだ。
「オレだって、親に会ってもらう時に話せばいいと思ったんだ」
確かに本当ならもっと前に真琴のご両親と会っていたはずで、その時に実は混血だったとか高校から離れて暮らしていたとかの話になっていたに違いない。
そう考えたら、お互い様なことに気づいた。
僕にとっては当たり前すぎて、改めて話すことでもないからとついでの時を待っていた。きっと真琴にとってもそうなんだ。
別に故意に隠していた訳じゃなかった。
それに気づいたら、なんだか拗ねてしまったことが恥ずかしくなった。
「ごめん。真琴」
「なんで謝るんだよ。それだけオレのこと好きってことだろ?」
そう言っていたずらっ子のように笑うと、僕に視線を合わせた。
「それにそうやって思いを隠さないでくれるからオレも嬉しい。これからも気になったら遠慮しないで何でも訊けよ」
その言葉と共に真琴から流れてくる思いが、僕を優しく包み込んでくれる。
大好き。
真琴から溢れる想い。
ちゃんと分かる。
だから僕も真琴に思いを伝える。
大好きだよ。
その思いをちゃんと受け取ってくれた真琴はふわりと笑って僕に抱きついてくる。だから僕も大きなお腹を圧迫しないように、思い切り手を伸ばして真琴を抱きしめる。
そうやって僕達は優しく抱き合い、その夜はそのまま眠りについた。
そして次の日、母の予告通り伯父一家がやってきた。
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