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「あら、お知り合い?」
その言葉に微笑みながら答える。
「オレがまだモデルを始めたばかりの頃に、一緒に仕事をさせて貰ったことがあるんです」
「まあ、まこちゃんモデルさんをしてたの?」
大雅の言葉に母が驚きの声をあげるけど、真琴はすぐに否定した。
「違うんです。なんかたまたまそこに居合わせてしまっただけで・・・」
聞くと大雅が雑誌の撮影のときに相手のモデルが急病で来れなくなり、困っていたところに真琴が偶然居合わせたらしい。
「あの時は本当にスタッフも困ってて、真琴さんが居てくれて助かったんです」
そうにこやかに話す大雅とは対称的に真琴は複雑な顔をする。
「て言うけど、あの時は散々断ったのにしつこく食い下がって来られて、仕方なくする羽目になったんですよ」
と少し嫌そうに話す。
「でもまこちゃん、こんなに綺麗なんだからその時のスタッフさんの気持ちも分かるわ。こう言ってはなんだけど、実は予定していたモデルさんよりも綺麗だったんじゃない?」
「そうなんですよ。結果的には予想以上の大成功になったんですけど、その後が大変で」
「あら、大成功なのに?」
「反響が大き過ぎて、あのモデルは誰だと言う問い合わせが殺到したんです。中には脅迫もあって」
その物騒な言葉に母が眉をしかめる。
「脅迫?」
「ええ。『私のドールに触らないで』て。こっちはたまたま居合わせて助けてくれた一般の人だと思ってその場でお礼をして終わったんですけど、脅迫まで来たのでお知らせした方がいいと思って一応聞いていた連絡先に連絡したんです。でもまったく連絡が付かなくて」
と言ってちらっと真琴を見る。
「真琴さんとはそれきりで、幸いにも脅迫も手紙だけで終わったんで良かったんですけど、真琴さんの方は大丈夫でした?」
にこにこと笑顔でそう言われ、真琴はなんともいえない顔になった。
「オレの方は大丈夫だったよ。オレだって気づかれなかったし・・・」
と何やら奥歯にものが挟まったような真琴の言い方に、大雅がさらに目を細めて笑った。
「大雅その話はもうその辺で・・・」
困った顔のままそう言う真琴に大雅がすみませんと謝ったのを見て、母が口を開く。
「そうね。それより紹介が遅れてしまったけれど、こちらは当麻の奥さんの真琴よ。ご覧の通りもうすぐ赤ちゃんが生まれるのよ」
そう言って母は見事に話題を変え、みんなの興味を孫の誕生に向けた。やはり歩夢くんも妊娠しているらしく、両家ともに初孫誕生を控えているとなって嬉しそうにその話題に夢中になった。
とりあえず親たちがその話で盛り上がっているので、僕達は場所をテラスに移して従兄弟同士の交流会となった。
そこでは各夫夫の馴れ初めや仕事の話など、たわいもない話で盛り上がり、夕食も済ませると伯父夫婦が他に宿を取っているとかで退席することになった。それを見送りリビングに戻ると、残った大雅が真琴を呼び止める。
二人だけで、まるで内緒話をするように話すのを見て内心穏やかではいられない。けれど昨日も僕の知らない真琴にもやもやしたばかりだ。
僕は二人を見ないように自室に下がった。
何を話しているのか気になる。
そもそもあのTAIGAと知り合いだったことも知らないし、人助けとは言えモデルをしたこたがあるのも知らなかった。
大雅が仕事を始めたばかりの頃っていつだろう?芸能界はあまり興味があるわけじゃないから分からないけど、大雅はまだ22歳だし、きっとその時はもう僕は真琴と出会っていたはず・・・。
モデルをしたなんて言ってくれてないな・・・。
知らずため息がこぼれたその時、部屋のドアが開いた。
「やっぱり戻ってたのか」
そう言って入ってきた真琴は僕の前に来ると、ぎゅっと僕に抱きついてきた。
「また一人で落ち込んでる。なんでも訊いていいって言ったろ?」
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