toma 2

6/8
629人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
その言葉と共に流れ込んで来る温かい思い。 「ごめん」 「だから謝るなって」 そう言って真琴は笑うと、僕に頬にちゅっとキスをしてから横に座った。 「大雅と会った時はまだ当麻とは会ってなかったんだよ」 それは大学入学前の春休み。 たまたま友人がスタジオを使って撮影しているのを見学している時に、声をかけられた。 最初はモデルなんてとんでもないって断り続けていたけど、あっちも切羽詰っていて引いてくれず、それどころか泣き落としまで使ってきたという。 「泣き落としというか、本当にパニクって泣いててさ。そしたら一緒にいた友人がそれを見て1回くらいいいんじゃない?、て」 そんな大人のやり取りを、大雅は横で黙って見ていたという。 「あの時はたしか中学生って言ってたかな?それにしてはえらくでかくてオーラも出ててさ。これは大物になるなぁ、て思ったら本当にすごいモデルになってびっくりだよ」 そう言って笑った真琴は何やらスマホをいじって僕に差し出した。そこには今よりも幼い顔をしたTAIGAと、彼にバッグハグされてる・・・。 「これ・・・?!」 そこに写っていたのはまさに西洋人形(ビスクドール)。 いわゆるゴスロリの格好をした、人間離れしたすごい美少女がそこに写っていた。 だけどこの顔・・・。 僕は思わず真琴の顔を見る。 真琴にそっくりだ。 だけどその女の子は頭にヘッドドレスをつけ、髪は長い。 思わず凝視した僕に真琴があっさりと言う。 「そうオレ。しかもそれ私服」 え?! このゴスロリの服が私服? 「この撮影をしたのは当麻に会う前だけど、これが載った雑誌の発売はもう出会った後だったんだ。それにこの写真が話題になったのも知ってたんだけど、オレがそれを当麻に言えなかった理由はこれ。女装だったからだよ」 なんでもこの格好、実は罰ゲームだったのだという。 その時一緒にいた真琴の友達と前の日に勝負をして負け、その罰ゲームが一日女装して過ごすこと、だったらしい。 「向こうのスタッフはオレのこと完全に女だと思って話してくるし、TAIGAは胡散臭い笑顔でずっと見てるし、そりゃ断るだろ?何で罰ゲームの格好を世間に晒さなきゃいけないんだよ。だけどもう時間が無い、代わりが見つからないって向こうが泣き始めて・・・」 それで仕方なくモデルを引き受けたのだと言う。 もちろん真琴にとっては恥ずかしい写真だ。だからそのことはその場にいたその友人以外には知らせなかった。 「もちろん親にも言ってないし、その時いたやつしか知らないんだ。しかもその時断りたかったオレは日本語が分からない外国人のフリしてたから、あっちのスタッフはみんなオレのことを外国の女の子だと思ってたんだよ」 おまけにちょうど大学入学準備のために引越して、スマホも変えてしまっために向こうはその後真琴と連絡が取れなくなったらしい。 「オレとしてはあの写真が話題になった時にバレないかヒヤヒヤしたけど、女装だったせいか案外バレなくてさ。でも当麻、実は一回あの写真が載った雑誌見てたんだぜ」 そう言って真琴は笑うけど、僕も見てた?こんなに真琴そっくりのモデルを見たら忘れないと思うけど・・・。 「その時はさすがにバレると思って、オレ咄嗟に言ったんだよ 。『やっぱり女の子の方がいいんだ』て。そしたら慌ててそんな事ないって言ってその雑誌を閉じたんだ。それ以来その話題もしないし、もちろん雑誌も見なかったよ」 『やっぱり女の子の方がいいんだ』 その言葉が頭の中でリフレインする。 たしかに昔、真琴に言われた言葉だ。でもどういうシチュエーションで言われたかは覚えていない。 だけどまだ真琴と付き合ってなくて、どうやって自分を受け入れてもらえるか必死になってた時だったのは覚えてる。 だからきっと、真琴に疑われるようなことをしないようにとこの写真も見なかったんだ。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!