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「──あ、ああぁぁぁぁあ!?」
楊卓の脚に絡み付くものが見えたのは、一瞬のことだった。
楊卓が消えた。音もなく。
蛇が通った跡のように雑草が凹んでいた。
それが、蛇行しながら森の奥へと伸びている。
「──あ゙ぁぁああああ……!!」
響き渡る絶叫に、我に返った。木々の隙間に飛び込むと、うつ伏せになった楊卓が泣きながらうめき声を上げていた。
「こうじゅ、こうじゅん、あし、おれのあし……」
楊卓の下半身は呑み込まれていた。どろどろとした、赤黒い肉塊に。木々をもめり込ませ、空を塞いでしまうほど大きかった。強烈な血肉と獣の匂いがする。楊卓を呑み込んだそこが、シュウシュウと焦げつく音を立てている。
俺が楊卓に近づいても、化け物はその表面を波のように蠢かせるだけだった。両手首を掴んで、力の限り救い出そうとする。両脚の皮膚が引き剥がされていく激痛に、楊卓は断末魔のような泣き声を上げる。
脚の付け根が見えてきた。肉塊は千切れて肉片になりながらも、べっとりと貼りついてくる。俺は肉塊に躊躇なく爪を突き立てた。意識にもやがかかっているようで、俺が呑み込まれたらどうしよう、とは不思議と考えなかった。
肉塊は激しく収縮した。鷲掴みにして引き千切ると、どろりと糸を引く。森全体が地震のように揺れる。俺はその太い肉の糸を、もう片方の爪でぶつんと断った。ぼたぼたと血が滴って、悲鳴のように風が吹き荒れた。
ぐちゃっ。ぐちゃ。どろっ。ぶつり。ぷつん。ぐちょっ、ぶつっ、ずるり。
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