六年目、二月十四日

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六年目、二月十四日

どこもかしこも甘い匂いが漂う街中。 俺は一人、人が密集する大都会の交差点を前に、空を見上げた。 ビルで煌々と光を放つ映像は、どれも甘々しいお菓子を宣伝していた。 時折はいるニュースも、どことなくピンク色で、少しだけめまいがする。 彼女は隣にいないのに。 息を吐いて、交差点に足を踏み出した。 瞬間、ポケットの中で握りしめたスマホが震える。 ハッと目を見開き、踏み出した足を戻した。 スマホは、興味もない広告のメール通知だった。 なんだ、と思った矢先、目の前を車が勢いよく通りすぎた。 ひゅっと空気が漏れる音がする。 また、スマホが震えた。 今度は電話通知。表示されたのは、彼女のスマホの番号だ。 『あ、もしもし? ごめんね突然――』 内容は、たいしたことない普通の会話だった。 でもこの時俺は、彼女に救われたような思いだった。 だからつい、口から言葉が飛び出した。 「……大好きだ」
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