11人が本棚に入れています
本棚に追加
七年目、四月一日
いつの間にか、こんなにも時間が経ったんだ、と彼女は笑う。
俺も、あっという間だったな、って返す。
空も青く、ほどよく温かい、うす桃色の花が咲いた春の朝。
彼女は相変わらず白い病室のベッドに座り、俺はその横に丸椅子を置いて座ってる。
今日、俺たちのこの関係に終止符を打つ。
七年は、あっという間に過ぎ去った。俺は毎日のように日記を付けては泣いて、彼女はそれを笑っていた。
色んなことがあった。イベントではしゃいだし、たまにある外出の後は熱出して心配もした。怒って、喧嘩になって、仲直りして、また泣いて。
いつまでもぬぐえない不安に駆られて、眠れない日もあった。
ただただ疲れて眠り続ける日もあった。
それでも俺たちはここまで来た。
もう、いいんじゃないかって……思うようになった。
「……じゃあ、書くよ」
確認するように俺を見て、彼女は言う。
うなずけば、そっとペンを走らせる白い指先。
――[白崎杏菜]。
「よし」
ペンを置いて、満足げに呟くと、それを掲げた。
俺の名前と、新たに書かれた、彼女の名前が、窓から差し込む光を反射する。
「……もう、後戻りなんてできないね」
彼女が俺を見て、いたずらに笑った。
なんて幸せなんだろうか。
「…………ありがとう、杏菜」
ポタリ、と落ちる水滴。彼女は少し困ったように眉を寄せながらも、俺の手を握ってくれた。
今日から俺は、彼女と家族になる。
きっとずっと、彼女を思い続けると、約束しよう。
だから神様……どうか、彼女を俺から奪わないでください。
少しでも長く、傍に居させてください。
――月島修。
最初のコメントを投稿しよう!