一年目、三月二十八日。

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一年目、三月二十八日。

暦でも、世間でも、春が来た。 あんなにも冷たく肌を刺すようにとがっていた空気も和らぎ、新しい草花の香りが漂い始めた。 ……はずだったが、いきなり気温が下がって、雪が降った。 積もるようなものでもなかったけど、雪になるくらいには、気温がいきなり下がって、すでに春を迎えようとしていた人の身体は、驚いてしまう。 俺の彼女も例外なく、風邪を引いた。 「――だから、ただの風邪だって」 諭すように言うも、すっかり鼻声でまったく説得力がない。 「大丈夫だよ」 そう言って笑う顔も、熱のせいか赤いし、目もずっと潤んでいる。 「ん? ああもう、また眉間にしわ寄ってるよ」 彼女が手を伸ばすが、それもまたゆらゆらしていて、不安になった。 「んもう、心配性なんだから」 息を吐きながら、軽く笑った。伸ばされた手を取り、そっと頬に当てる。 早く治れ、と口付けをする。
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