田島という存在

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 田島が本番を拒んだことには、事情がありました。それは田中です。田中とは付き合っていましたので、本番を拒んだのです。田島は本当に律儀なやつです。そして何より田中の存在が田島の心の支えになっていました。それほどまでに、田中と田島は通じ合っていたのです。  しかしその関係も長くは続きません。ホスピスから電話が入り、母の様態が急変したのだと言います。田島はすぐさま、母の元へと急ぎました。医師の説明では、新しい薬で様態は一時的に安定しています。しかしまたすぐに薬が必要になるため、これまで以上に治療費が必要とのことでした。結果的に田中との関係は続かなかったのです。 ______春休み  春休みの時期に入り、学生はいません。そんなスタジオ現場に、田中がパンツと呼んでいる、役者がいました。役者は恵雨と言います。田島はあるものを探していました。それは母と一致する免疫を持った人間です。田島と寝ていないという、男はそう多くはありません。家族ですら少ないのですから、そう安易なことでないことは想像が付きます。ですけれど、奇跡は起こりました。奇跡と呼んで良いのか、皮肉なことに恵雨と一致したのです。  田島「恵雨さん。黙っていますから。何とか協力してもらえないでしょうか?」  恵雨「協力と言われてもねぇ。」  田島「報酬もお支払いしますので、お願いします。」  田島は土下座して、恵雨に頼み込みます。恵雨は内心、田島のことは気に入っていて、田島の提示した額は、それに加えて、半端ではありませんでした。それに田島との関係もあります。  恵雨「土下座までされたらねぇ。頭を上げな、断れない。」  田島「有り難う御座います。」  田島は思慮深く恵雨に感謝しました。しかし決して、完治はしませんので、これまで以上に働かねばなりません。
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