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田島は唯一心を許せる聖域がありました。それは田中以外の何者でもありませんでした。今まで田中先輩とは、唯一無二の友人として、接してきたつもりです。あの日までは。
______回想
あの日、終電を逃がした僕に、田中先輩は優しく泊まっていくように、言ってくれました。僕は田中先輩を心の底から信頼していましたので、家にお招きいただいたときは、とてもうれしく思いました。
具合の悪い僕が、ソファーで横になっているときも田中先輩は優しく、気に掛けてくれました。思い返せば、自分自身がソファーで寝ようとしてくれる。田中先輩はそんな人です。気分が悪そうにしていて、お互いの服は脱ぎました。けれどそんな田中先輩を、心底信頼していました。ベッドに入ったときも、先輩なら間違えはないはずだと。しかし僕が甘かったです。 ついいつもの手癖で、大切な田中先輩の下半身に触れてしまいました。それでも田中先輩のことですから、そのまま何事もなかったように。明日は現場に向かえると信じていました。
いきなり田中先輩が、僕の中に入ってきたことを、僕は悪い夢ではないかと疑いました。しかし、田中先輩は『すまない』と一言だけ謝り、その幻想は打ち砕かれました。僕の方は慣れていましたが、田中先輩が僕のことを『好きだ』と、名前を呼びましたので口を重ねて、舌を絡めるたび、田中先輩との関係が崩壊していく感じがして、とても悲しく思いました。しかし相手が先輩であったこともあり、僕はことの最後までノンケを演じました。
田中先輩が起きる前に始発で、現場に向かいました。僕は唯一の友人を失いました。
______ホスピス
恵雨の協力もあり、医師の説明では田島の母の免疫は、少しずつではありますが回復に向かっているとのことです。しかし長くは続かないとのことでした。田島はやむを得なく、恵雨と結婚することにしました。
田島母「外に出られるなんて、うれしいよ。」
田島がキュルキュルと車椅子を押し、余り遠くまでは行けませんが、田島の母と散歩に出掛けます。田島は母とのつかの間の時間を少しだけ満喫しました。 以後、田島は今でも稼ぎに追われています。
田島は聖域を失いました。しかしこれまで失いかけていたものを取り戻せたかも知れません。
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