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 異質。異端。異能。  それが自分のカテゴリー。  それは、目に見えぬ鋼の鎖のごとく、  きっと、死ぬまで外れぬ楔なのだろう。 *  風はいつだって流風のそばにあった。くすぐって、じゃれついて、ふわりと優しく流風を包みこむ。それだけでなく、風はいろんなことを流風に教えてくれる。  小さいころ、それは当たり前のことだと思っていた。それを口に出すことも悪いことだと思わなかった。けど、それがそうじゃないと初めて気がついたのは、お隣に住んでいたケン君のママに、気持ち悪いっていわれたときだった。  ケン君がパパに遊んでもらえないって泣いていたから、ケン君のママにはパパ以外に仲良しさんがいるから、その人なら遊んでくれるかもしれないとケン君にいった。泣いているケン君を元気づけたかっただけなのに、ケン君のママは眉を吊り上げて怒りだした。 「なんなの!人の家を盗み見てるわけっ?」  見ていたわけじゃない。教えてもらったのだ。風さんに。そういったら、ケン君のママは恐ろしいものを見るような顔で。 「き、気持ち悪い子ねっ!ケン、もうこの子と遊んじゃだめよっ」  そういってケン君を引っ張ると、隣の部屋のドアをばたんと閉めた。そしてその後、ケン君のお家は引っ越してしまった。  それからも同じようなことが起きた。ママがお空にお散歩に行ったまま帰ってこない間も、ばあばが白いベッドで眠っている間も、流風は周りから気味悪がられ、怒られてばかり。  自分の言葉は他人を不快にさせる。だから黙ることを覚えた。唯一の味方は風さんと、ママの宝物で自分の宝物でもあるクマのしーちゃん。  流風はその二つをぎゅっと抱きしめて、ママもばあばもいない建物の中で、小さくなって毎日を過ごした。  じどうようごしせつ、っていうんだと教えてくれたのは、いつも髪の毛を引っ張ってくる男の子。流風はその男の子が嫌いだった。だから違う建物にお引越ししたときは嬉しかった。けど、やっぱり言葉を発するのは怖くて黙っている毎日。  そんなある日、神様が微笑んでくれた。ううん神様じゃない、女神様だ。だって、とてもきれいだったから。それは透明な美しさ。女神様は自分もここで育ったといった。  その女神様は西宮紗那というお名前で、青い海の色に包まれていた。そのお話をしたら、怒るどころか微笑んでくれたのだ。嬉しかった。すごくすごく。そして、クマのしーちゃんにマフラーとお洋服をプレゼントしてくれた。しかもプレゼントはそれだけじゃなく、クマじゃない、しーちゃんもくれたのだ。  大きくて動いてるしーちゃん。それはママが大好きだったしーちゃん。しーちゃんはね、ママにクマのしーちゃんをプレゼントしてくれた人なんだよ。嬉しくて抱きついたら、しーちゃんが泣いてしまった。だから頭をぽんぽんしてあげたのだ。  大きなしーちゃん。赤い髪がちょっと固めなしーちゃん。煙ばっかり吐き出しているしーちゃん。言葉が乱暴なしーちゃん。怒ると怖いしーちゃん。怒らなくても目つきが怖いしーちゃん。けど、とっても優しいしーちゃん。しーちゃんはママのお兄ちゃんなんだって。  そんなしーちゃんこと、ママのお兄ちゃんの名前は片瀬慎吾。そして風さんはそっと教えてくれた。 ーーこの男は、おまえを守る。守りつづける。  そのときの風のささやきは、その後もずっと証明されつづけている。何年も何年もーー。
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