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ブーヂン大統領の演説
私達が乗った機体はモスクワの郊外にあるクビンカ空軍基地に着陸した。私は他の乗客と分けられ、ユーリ大佐と共に黒色の高級車に乗せられた。
「ユーリ大佐、日本に電話をしても良いですか? 日本で私の手術を待っている患者が居るので」
幸いの事に私はスマホを取り上げられていなかった。
「構わないです。既に極東航空機のハイジャックはニュースになっています。隠す必要ないので」
電話の許可を貰って頷きながらも、安村部長にコールをする。
「田川先生か? 君のフライトがハイジャックされたと日本では大騒ぎだ。今、どこに?」
「モスクワです」
「モスクワだと? 何故そんな所に?」
「ブーヂン大統領の手術をする為に連れてこられた様です」
「ロシア大統領のか? でもさっきの演説でも元気そうだったが何の病気なんだ? それよりブーヂンは大変なことを言っているんだ。動画サイトを見てみろ」
急いで動画サイトを立上げる。大統領の演説の動画は直ぐに見つかった。そこに映った大統領は確かに私の手術が必要な様には見えない。
『……三日以内にウクライナが降伏に応じない場合は、キーウに戦術核ミサイルを撃ち込む。ウクライナの賢明な判断を期待する』
その言葉に衝撃を受けていた。
「……核を使うって……」
「そうだ。ブーヂンが何かの病気だとしても、手術をしてやる必要はないぞ」
電話を切って私は大きく溜息を吐いた。そうは言ってもこの状況で手術を拒否出来るとは思えない。それに私は医師だ。ドクターコールで呼ばれたら、その患者を全身全霊を掛けて助けるのが仕事だ。それがどんな患者でも……。
そんな考えを巡らしていると、車はモスクワ医科大学に到着した。
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