41人が本棚に入れています
本棚に追加
私が執刀する患者、ドミトリ・オルロフ。ロシアに武器を横流ししていて、その武器でどれだけの人が犠牲になったか? でもどんな人物だとしても、私の患者となったからには、全身全霊を掛けて治療するだけだ。
彼のMRI画像を見ると、右の聴神経と顔面神経を巻き込んだ巨大な脳腫瘍が映っている。他にも腫瘍は重要な神経と血管を巻き込んでいて、急いで処置をしないと確かに命に関わる。しかしその位置は脳の深部であり、細心の注意を払って執刀しないと、死に直結する非常に難しい手術となるだろう。
「それでは始めます」
手術は大学病院の手術室を借りて行われている。サポートの医師や看護師も大変優秀な方が集まってくれている。
右耳の後ろの頭蓋骨に穴を開けて、ゆっくりと脳の深部に分け入っていく。顕微鏡下で脳本体と神経や血管を保護しながら慎重に進んでいった。約一時間で腫瘍本体が見えて来た。
「そうか、完全に聴神経を巻き込んでいるのね」
聴神経は巨大な腫瘍に押しつぶされ顔面神経も腫瘍に巻き込まれている。シャープフックナイフで神経を持ち上げ、神経を保護しながら超音波吸引器で腫瘍を砕いていく。ARBを見ながら、神経と腫瘍の境目を慎重に見極め、腫瘍を取り出していった。
約三時間で脳深部の全ての腫瘍が取り出され、腫瘍に押しつぶされていた神経が解放された。また影響を受けていた他の神経や重要な血管も保護され、手術は大成功だったと言えるだろう。
「ドクタータガワ、凄い手術でした。正確さとスピード。これまで見た脳手術の中でベストでした」
サポートの医師の感嘆の声に私は笑顔で頷いていた。
最初のコメントを投稿しよう!