ドクターコール

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ドクターコール

 ロンドンを離陸して三時間が経過していた。結局眠れなくて、今はパソコンを取り出して、執刀する手術のデーターを確認している。  シートモニターのマップ画面を見ると、機体はハンガリーを抜け黒海の南部を飛行している。ウクライナの五百キロほど南だ。  窓のシェイドを少しだけ開けてみた。そこには黒海の海原が広がっているけど、その先にある筈のウクライナの大地は見えない。でもあの先で……。 「ウクライナ戦争が……。早く平和が訪れます様に……」  私がそう呟いた時、機内放送が聴こえてきた。 『機内に病人がいらっしゃいます。お客様の中にお医者様はいらっしゃいますか?』  それはドクターコールだった。もう百回以上は飛行機に乗っている私にとっても機内でのドクターコールは初めてだった。  自分の席から立ち上がると、直ぐにCA(客室乗務員)が近づいて来た。 「お客様、もしかしてお医者様ですか?」 「はい。病人はどこですか?」 「ファーストクラスです。こちらへどうぞ」
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