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パイロットコール
『お客様の中でパイロットの方はいらっしゃいますか?』
客室がザワつくのが聴こえる。それはそうだろう。普通、パイロットを呼び出すなんてあり得ない。
直ぐに他のCAが背の高いスラヴ系の男性を連れて来た。
「この方、英国航空のパイロットだそうです」
彼は自分の身分証を見せながら挨拶した。
「英国航空の機長、ダグ・ベッツです。どうしたんですか?」
「パイロットが全員倒れてしまい、この機体を操縦出来る方を探しています。失礼ですが777の操縦資格はお持ちですか?」
「はい、今はA350に機種転換しましたが、777の操縦経験が有ります」
「良かった。このまま羽田まで飛べないので、どこかに緊急着陸をするしかないと思います。操縦をお願いできますか?」
「はい勿論です。ですが、誰か一緒に操縦席で無線のサポートをお願いできませんか?」
その依頼にチーフパーサーは他のCAを見渡しながらも、大きな逡巡を見せている。その姿に私は手を上げた。
「私は医師です。無線のお手伝いは出来ると思います」
「分かりました。貴女、お名前は?」
「田川真理です」
「OK、ドクタータガワ。一緒に操縦席へ」
その言葉に頷くと彼に続いて操縦席に向かった。
「私が左席に座るので右席に」
「はい、ベッツさん」
「方位65、FL350。位置は黒海の上空ですね。よし」
彼は前面のダイヤルを操作している。HDGと書かれた表示が355に変更され、機体が自動操縦で左へ旋回していく。
「方位355度って北に向かうんですか? 管制への連絡は?」
「今は、必要ないです」
「でも、黒海上空で北に向かうとウクライナかロシアですよね? 南に向かってトルコのどこかの空港に緊急着陸する方が……」
彼はその問いに答えず、今度はセンターコンソールのスイッチを触っている。無線の周波数を変えている様だ。彼がマイクに向かって声を上げた。
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