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モスクワへ
「Это Юрий. Миссия прошла успешно. Мы приедем в Москву」
「えっ? ロシア語? 今、モスクワって?」
驚いて私が固まっていると、彼が口角を上げてニヤリと笑った。
「そうです。この機体はモスクワに向います」
その言葉に更に衝撃を受ける。
「えっ、モスクワに? 貴方は最初から……そのつもりで?」
「そうです。パイロットに放射性物質を食べさせて毒殺したのも私です。英国航空のパイロットだと言ったら三人とも直ぐに意気投合してくれて、英国の美味しいお菓子だと渡したら計画通り食べてくれました」
「何てことを……貴方は誰なの?」
「私はロシア空軍大佐のユーリです。そして……」
彼がそう言った瞬間、操縦席の窓の左側に流線型の戦闘機が現れた。その尾翼には赤い星が見える。
「あれはロシア空軍のスホーイ35です。モスクワまで先導してくれます」
私は愕然としていた。どうしてこんな事に……。
「でもモスクワに向かう目的は何?」
「それは……、ドクタータガワ、貴女をロシアの大統領が呼んでいるからです。貴女に手術を執刀して貰う為に……」
「私に手術を……? そして大統領が私を呼んでいるんですって? それって、誰の執刀をさせるつもりなの?」
彼はもう一度口角を上げた。
「大統領自身の手術ですよ」
再び衝撃を受ける。
「大統領って、イラミジール・ブーヂン大統領……。ウクライナ侵略の張本人を……?」
今、この機体には彼しかパイロットが居ない。私達にはこの機体のモスクワ行きを止める術は無かった。
黒海の北側の大地が見えて来た。大きな街が見える。
「あれはソチです。やっとロシアの領空に入りました。あとモスクワまで二時間です」
その言葉を聞きながら、余りに衝撃的な展開に声も出せずに居た。
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