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そんな瑞季と、最終面接で初めて直接会って話すのだ。気分が上がらない方がおかしいだろうと言うように、茉美は引き続き意地悪く香心の頬を突く。
しかし香心の胸の内は、かえって憂鬱だった。
「一体何が、そんなに気にかかるわけ? そりゃあ、あのミズキさまとの面接だから、緊張感はヤバいと思うけどさ」
茉美は、とうに飲み終えて空になったカップの取っ手を人差し指で撫でながら、不思議そうに小首を傾げる。
ちなみに彼女は美術系の専門学校に通う二年生で、広告デザインを主とする企業への就職が決まっている。
香心ほどではないが、モデル時代の瑞季のファンとして語り合える、貴重な存在だ。
香心はテーブルの上の両手を重ね合わせ、「一つだけ不安なことがあるの」と切り出した。
「当日の課題として、『Dear my precious』に相応しい、トータルコーデで来てくださいって言われたんだよね……」
茉美は「え?」と訝しげに眉根を寄せる。
「それって、店名の意味を汲み取れってこと? それとも、自分の持つお店のイメージを表せってこと?」
「多分、意味を汲み取る方だと思う。説明会も一次も二次も『Dear my precious』の名前の由来、凄く熱心に説明されていたから……」
「やたら執拗いの間違いでしょ」
思わずなのか、そうボソリと毒を吐いた彼女。香心は慌ててワタワタと両手を振る。
「ま、茉美……!」
どこで誰が聞いてるか分かんないよ? と咎めると、茉美は渋々というように口を噤んだのだった。
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