#1 師走*First contact

5/13
前へ
/353ページ
次へ
 そんな瑞季(みずき)と、最終面接で初めて直接会って話すのだ。気分が上がらない方がおかしいだろうと言うように、茉美(まみ)は引き続き意地悪く香心(こうこ)の頬を(つつ)く。  しかし香心の胸の内は、かえって憂鬱(ゆううつ)だった。 「一体何が、そんなに気にかかるわけ? そりゃあ、ミズキさまとの面接だから、緊張感はヤバいと思うけどさ」  茉美は、に飲み終えて空になったカップの取っ手を人差し指で撫でながら、不思議そうに小首を傾げる。  ちなみに彼女は美術系の専門学校に通う二年生で、広告デザインを主とする企業への就職が決まっている。  香心ほどではないが、モデル時代の瑞季のファンとして語り合える、貴重な存在だ。  香心はテーブルの上の両手を重ね合わせ、「一つだけ不安なことがあるの」と切り出した。 「当日の課題として、『Dear my precious』に相応しい、トータルコーデで来てくださいって言われたんだよね……」  茉美は「え?」と訝しげに眉根を寄せる。 「それって、店名の意味を汲み取れってこと? それとも、自分の持つお店のイメージを表せってこと?」 「多分、意味を汲み取る方だと思う。説明会も一次も二次も『Dear my precious』の名前の由来、凄く熱心に説明されていたから……」 「やたら執拗(しつこ)いの間違いでしょ」  思わずなのか、そうボソリと毒を吐いた彼女。香心は慌ててワタワタと両手を振る。 「ま、茉美……!」  どこで誰が聞いてるか分かんないよ? と(とが)めると、茉美は渋々というように口を(つぐ)んだのだった。
/353ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1028人が本棚に入れています
本棚に追加