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そんな香心に救いの手を差し伸べたのは、他でもない瑞季だった。
「――香心」
いつかの日と同じように、降ってきた穏やかな声音。
見上げると、左肩に手を置かれたので、そのまま促されるようにして、壁際の椅子に腰掛ける。
すると、彼はその場にしゃがんで片膝を立てると、香心の頬に右手を添えた。いつものポーカーフェイスに、真剣な眼差しが加わる。
「プロデュースは完成した。だが、恋人としては終わってない。寧ろ、まだまだこれからだ」
「え……?」
どういう意味か分からず、ぱちくりと瞬きした香心に、瑞季は小さく笑んで続ける。
「ペアが決まったとき、俺は、このコンテストが、きみの自信に繋がってほしい。――そう思ったんだ。そのために、できることがあるなら、なんだってしようとも思った」
今思えば、このときにはもう、好きになってたのかもしれないな。――そう言って、照れくさそうに微笑を漏らした彼の姿に、胸の奥がキュッと縮こまる感覚がした。
瑞季は一旦、右手を下ろすと、スっと軽く息を吸い込み、あることを告げた。それは――。
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