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「もっと、俺に甘えてくれ」
今まさに、心の中を見透かされたのではないか。ハッと瞠目する。
そんな香心の頬に再び右手を添えながら、瑞季はおどけるように、肩を竦めて一笑した。
「仕事はともかく、プライベートのときまで自分を抱え込んで我慢したら、俺の入る隙なんてどこにもないだろう」
そして――。
「俺だって、もう年甲斐なくきみに甘えてるのに……不公平じゃないか?」
今度は打って変わって、不機嫌そうに唇を尖らせたかと思ったら、そんな言葉と共に頬杖と上目遣いを寄越され、香心の胸は更に縮こまる。
彼の言ったそれは、恐らく一か月前のあの日、一晩、添い寝をしたことだろう。確かにあれは、瑞季に甘えられてそうしたのだった、と思い出す。
その後、今日までは、コンテストの準備に追われていたせいか、自宅へお邪魔したのはあれきりだ。しかし、今は何より――。
「わ、分かりました、甘えます。ちゃんと甘えますからっ……!」
この数分のうちに、コロコロと変わる彼の表情は、普段とのギャップが凄まじく、心臓はとうに限界を迎えていた。
顔を赤くしながら、アワアワと言い募った香心の心意に気付いているのか否か、瑞季は「ありがとう」と微笑したのだった。
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