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パーソナルカラーとは、その人の生まれ持った肌や髪、目の色などと雰囲気が調和する、つまり似合う色のこと。
まだ一年目とはいえ、この知識は基本中の基本だ。知らなかったという羞恥と同時に、こんなことを態々、店長である瑞季直々に尋ねてしまったことに、情けなさと後ろめたさを感じた。
しかしこの出来事をバネにして、香心はより一層、勉学に励むようになった。ファッションに関する知識だけでなく、色彩についても学び、検定試験も受験し合格した。
ちなみにこれは後で聞いたことだが、彼と高校時代からの同期で、副店長でもある一色朔也によると、その日香心が付けていた口紅は、パーソナルカラーに合っていなかったのだそうだ。
今ではもう、その知識はしっかりと身に付いているので、瑞季が選んだ口紅の色も当然分かる。
――ピンクベージュ。
心の中でそっと呟く。やはり彼はパーソナルカラーを確認していたのだ、と。
仕事なのだから、そんなことは当たり前。加えて今回、普段は客が受けるプロデュースを店員である香心が受けている理由は、本日が他でもない『Dear my precious』の開業十周年を記念した、コンテストの一貫だから。
――分かってる。そんなこと。
それでも、こうして憧れの人が自分のために手を尽くしてくれている。それだけでもう十分だと、香心は思った。
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