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――三年前
「えっ、まだ一社も内定貰えてないの!?」
チェーン書店に隣接するカフェ。その窓側二人席。
ホットコーヒーの入った白いカップを手に取りかけたところで、三枝茉美はピタリと静止し声を上げた。
瞬間、周りの視線が痛いほど刺さる。
良くも悪くも、感情をあっぴろけに晒す高校時代の友人。そんな彼女を若干恨めしく思いながらも、事実であることに変わりはないので、不承不承「……うん」と頷く。ただし本当に、極小さく。
ここで縮こまった香心を見て自分の失態に気付いたのか、茉美は「あ……ごめん」と呟いた。
そして取り繕うように目の前のホットコーヒーに口を付けると、数瞬の後ソーサーに戻し、改めてその身をテーブルに乗り出した。
「で? 一体今、現状はどうなってるわけ? もう十二月だよ?」
「うん……」
またも苦虫を噛み潰すように重々しく頷き、香心はオレンジベージュに彩られた唇を薄く開き報告する。
香心は現在二十歳。都内にある服飾系の専門学校に通う二年生だ。つまり現在、絶賛就職活動中なのである。
しかしどういうわけか、香心の努力に反比例するかのように、尽く面接やらに落ち続け、気付けばもう十二月。
長期戦になることは覚悟していた。していたが――この時期になってもまだ一社も内定を得ていないのは、恐らく学年で香心ただ一人だけ。
高校時代に部活で鍛えたはずのメンタルは、最早こてんぱん。奈落の底まで突き落とされた気分だ。
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