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「でもひとまず、あの『Dear my precious』に二次まで通ったんでしょ? 凄いじゃん」
現状報告を終えると、茉美は興奮気味に瞳を輝かせ、テーブルに肘をつく。
そんな彼女の様子に少しだけ気持ちを取り戻し、嬉しさから思わず小さくはにかんだ。
それは夏休み前のこと。香心はブライダル特化を専攻していた影響で、就職先は当然その路線で考え選考に臨んでいたのだが、残念ながら結果はついて来ず、他の服飾系企業の門も叩いてみることにしたのだ。
そして一か月前に出会ったのが、『Dear my precious』というアパレル店舗を運営する企業だった。
そこは、とある決定的な理由から、企業名よりも店舗名の方が知れ渡っているせいで、説明会もその後の選考も全て、人事部ではなく店舗の人物が行っている。
香心はそんな――茉美が言うところの、あの『Dear my precious』に二次面接まで通り、残すところ最終面接のみとなったのだ。が、まだ油断は禁物だ。
緩んでいた頬を引き締め、香心は自分に言い聞かせるように彼女の言葉を受け止める。
「一週間後にあるの。最終面接」
そっか。頑張ってね。――軽い言葉とは裏腹に真摯な眼差しでエールを送った茉美だったが――。ふと、その桜色の薄い唇が、にんまりと意地悪く笑みを浮かべた。
そしてテーブルに更に身を乗り出し、香心の耳元へそれを寄せると――。
「やっと話せるね。愛しのミズキさまと」
「ま、茉美……っ!」
バッと勢いよく身を引くと同時に、熱を持った耳元を右手で押さえる。
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