#1 師走*First contact

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 "愛しのミズキさま"――それは決して、恋愛感情としての"好き"ではなく。(むし)ろ好きでいること自体が、恐れ多いくらいだ。  ――だって何を隠そう、日本を代表するカリスマモデルんだもの……  香心(こうこ)は雑誌や写真集でしか見たことのなかったその姿を、説明会の場――つまり『Dear my precious』の店舗で目にしたとき、一瞬息が止まったことを思い出す。 『学生の皆さん。本日は弊店の説明会にお越しくださり、誠にありがとうございます。――"Dear my precious"店長の、及川(おいかわ)瑞季(みずき)と申します』  彼がモデルを引退したのは、今から八年前。当時二十二歳というあまりにも早すぎる幕引きに、日本中のファンが嘆き、メディアでも大きく取り上げられた。  引退の理由を彼自身が語ることはなく、当時は様々な憶測が周囲から飛び交ったものだ。結婚、留学、スキャンダル……。それらは止むことを知らなかった。  しかしまさか、企業傘下でアパレル店舗の経営者となっていたとは。  これこそが、企業名よりも店舗名の方が世間に知れ渡っている理由なのだ。  "元モデルのMizukiが、都内に店を出している"というSNSの書き込みを見たときは、信じられず、デマだろうと思っていたが、説明会でその姿を目にすれば、もう信じるしかなかった。  
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