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"愛しのミズキさま"――それは決して、恋愛感情としての"好き"ではなく。寧ろ好きでいること自体が、恐れ多いくらいだ。
――だって何を隠そう、日本を代表するカリスマモデルだったんだもの……
香心は雑誌や写真集でしか見たことのなかったその姿を、説明会の場――つまり『Dear my precious』の店舗で目にしたとき、一瞬息が止まったことを思い出す。
『学生の皆さん。本日は弊店の説明会にお越しくださり、誠にありがとうございます。――"Dear my precious"店長の、及川瑞季と申します』
彼がモデルを引退したのは、今から八年前。当時二十二歳というあまりにも早すぎる幕引きに、日本中のファンが嘆き、メディアでも大きく取り上げられた。
引退の理由を彼自身が語ることはなく、当時は様々な憶測が周囲から飛び交ったものだ。結婚、留学、スキャンダル……。それらは止むことを知らなかった。
しかしまさか、企業傘下でアパレル店舗の経営者となっていたとは。
これこそが、企業名よりも店舗名の方が世間に知れ渡っている理由なのだ。
"元モデルのMizukiが、都内に店を出している"というSNSの書き込みを見たときは、信じられず、デマだろうと思っていたが、説明会でその姿を目にすれば、もう信じるしかなかった。
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