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プロローグ
命の灯火が燃え尽きたのを感じた。
気づいた時には、私は私の身体を上から見下ろしてた。白い壁に囲まれた無機質な病室の、中央に鎮座するベッドのうえで眠るように瞼を閉じている私を、第三者の視点でみるのは不思議な心地だった。
壁と同じ色の布団が胸元まで掛けられているが、その身体を包んでいる布は微かにすら動かない。何故なら、もう私の呼吸は止まっているからだ。
そう、私は死んだ。
辛い、悲しい、そんな気持ちは微塵のかけらもなかった。
だって最高の人生だったから。
しばらくすると、ひかりの中に導かれた。
その場所は、黄白色の光をやんわりと灯す小さな玉が、粉雪のように降り注ぐ不思議な空間だった。
程なくして、今までの人生の軌跡が映画の早送りのように流れ、私は海月みたいに揺蕩いながらそれをみていた。
自分の人生に魅せられて。
ひかりに魅せられて。
静かに涙を流した。
小さなひかりの玉が、小さなひかりの玉と触れ合うと、一粒、また一粒と弾けて私の周りに少しずつ集まってきた。
あっという間に私はひかりの玉に包まれて、一つの大きなひかりの玉になっていた。
中から声が聴こえた。なにか言ってる。
耳を澄ますと、もう一度人生を歩めるとしたら、やりたいことはないのかと聞かれているようだった。
だから私は答えた。
彼女の笑顔がまたみたいと。
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