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大きなマンションの駐車場に車を停め、結城が花恋に声をかける。
「降りて。ついて来て」
「はい…」
結城の低い声、ただならぬ雰囲気に花恋は圧倒され、大人しく結城について行く。マンションのエントランスを入り、エレベーターに乗って10階に上がり、1022号室の前で止まった。結城が鍵を開け、ドアを開ける。
「入って…」
花恋は結城の顔をチラリと見て、小さく頷き中に入った。玄関で立ち止まっていると、結城が靴を脱ぎ中へ呼ぶ。花恋も靴を脱ぎ、部屋の中へ入った。
恐る恐るリビングに入ると、結城は鞄を置いて、振り返り花恋に近づく。花恋の手から鞄を取って床に置き、手を掴んで引き寄せた。優しく花恋を抱き締め、耳元で結城が尋ねる。
「花恋、首の痕、どうした?」
「こ、これは…」
花恋は体を離し、結城の目を見て口をつぐむ。結城は花恋をゆっくりとソファーに座らせ手を握って、花恋の足元のラグマットに腰を下ろした。
「スカーフを取って、見せて」
花恋は首を振るが、結城は花恋の手を離し、膝立ちになって花恋の首に手を伸ばしスカーフを解いた。まだ赤く残る絞められた痕。
「なんで……旦那にやられたのか…?」
花恋の目から涙が落ち、小さく頷く。
「はぁっ……花恋……くっそ!」
結城がソファーを拳で叩き、怒りを露わにする。
「それだけ痕が残ったって事は、相当だな。大丈夫なのか? 病院に行くか?」
「ううん、もう大丈夫。昨日、休んだから」
「それでか……いつも気づくのが遅くてごめんな」
「ううん…」
「でもどうしてやられたんだ?」
「もう一度、離婚の話をして来たの。離婚届を書いてもらって、帰る時だったの」
結城が立ち上がり花恋の隣に座って、花恋を抱き締める。
「花恋、無茶し過ぎだ。前にも言っただろ、何かあったらどうするんだって」
「でも、私自身で終わらせたかった。結城さんには迷惑をかけたくなかった」
「頑張り過ぎだ。死んだらどうするんだ…」
「でも離婚届は書かせたし、別れる事が出来た…」
「あぁ、1人でよく頑張った。つらかっただろ。力になってやれなくてごめんな」
「ううん…」
「花恋…」
「ん…?」
「花恋…」
花恋の腰を結城の手が引き、花恋をソファーに押し倒す。
「結城さん……ダメ…まだ、ダメ…」
花恋は首を横に振り、覆い被さって来る結城の体を手で押し抵抗する。だが結城の手が花恋の手を掴み、体を寄せる。
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