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11月になり、仕事を終え、花恋は実家ではなく自宅に向かった。今度こそ祐介と離婚の話を成立させ『離婚届』を書いてもらう為に。 鍵を開け中に入ると、部屋の中に異様な臭いが充満していた。花恋はすぐさま換気扇を回し、ベランダに出る窓を開ける。部屋の中は祐介が約1ヶ月間、コンビニで買って食べたであろうお弁当のゴミや飲みかけのお茶やジュース、ビール缶が散乱していた。 花恋はゴミ袋を出し、リビングやキッチンを片づけ、シンクの洗い物を片づけた。ダイニングテーブルやローテーブルを綺麗に拭き、窓を閉めていると玄関のドアが開いた。ドタドタと中に入って来る足音と共に、祐介が姿を現す。 「花恋……帰って来てくれたのか…」 「祐介…」 本当に心配していたのか、祐介の顔はやつれ、体も少しやせ始めていた。 「祐介、今日はもう一度離婚の話をしに来たの」 「また、離婚の話…」 祐介は鞄をソファーの上に置き、ドカッとソファーに座った。花恋は鞄から『離婚届』を出し、広げてローテーブルの上に置き、祐介にペンを差し出す。 「こんな生活もうやめよう。私達はもう戻れない。離婚して」 祐介は少し考えてから、花恋が差し出したペンを取り『離婚届』の夫の欄を記入し始めた。花恋は鞄からキーケースを取り出し、家の鍵を外してローテーブルの上に置く。次に前の携帯と左手の薬指にはめた指輪を外し、鍵と一緒に置いた。 祐介が黙ったまま『離婚届』を書き終え、花恋は紙を受け取り、記入漏れがないか確認する。 「うん、大丈夫。じゃ、これは私が出しに行くから」 「花恋、出すのはもう少し待ってくれないか」 「えっ、どうして?」 「俺の両親にはまだ離婚の事話していないし…」 「分かった。じゃ、来週にするから、今週の内に話しておいて」 「うん…」 花恋は『離婚届』を鞄にしまい、立ち上がった瞬間。 「花恋っ! !」 祐介が立ち上がり、花恋に襲いかかる。花恋を突き飛ばして床に倒し、馬乗りになり花恋の首に両手をかけた。ぎゅっと締まる祐介の大きな手。花恋の喉元を祐介の2本の親指が押しながら締め上げる。 花恋は必死に脚をばたつかせ、祐介の腕を掴み抵抗してもがくが、祐介は花恋の上に乗り顔色ひとつ変えず手を緩めない。ぎゅうぎゅうと締まっていく祐介の手。 必死に息をしようと口を震わせる花恋。だが息が出来ず次第に苦しくなり、脳に酸素が行かず思考は停止し、体の力は抜けフッと意識が飛んだ。 一気に体の中に酸素が流れ込み、花恋は激しく咳き込み、うずくまる。花恋の意識が飛んだ瞬間、祐介が手を離し、花恋の上から降りたのだった。そして涙を流し、花恋に謝る。 「ごめん、花恋。ごめん…」 花恋はふらつきながら起き上がり、ゆっくりと立ち上がり鞄を持ち祐介を見下ろし言った。 「私を殺そうとした、最低な男……あんたなんか、もういらない…」 かすれた声でそう言って、ゆっくりとふらつきながら家を出る。エレベーターまでが遠く感じる。頭がぼぉーとし、まだ息が苦しい。花恋は力が入らない足でゆっくりと駐車場に向かい、車に乗り込みしばらく体を休める。 (早く、帰らないと……お母さんとお父さんが心配す…) そこで花恋は力尽き、眠ってしまった。
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